元気すぎる夜のおさんぽ 3

人に対して甘く なおかつ息子に対しては さらに甘く
自分自身には ベトベトベタベタなほど甘すぎる自分は
今宵も息子と夜の散歩に出かけるのだった

おさんぽ

飽きもせずに息子は毎夜 夜の散歩をせがんでくる

家を出て最初の分岐点となる十字路がある

そこを右に行けば 最初に散歩を始めた時の公園周りルートになり
左に行けば 昨日の夜にビールを買いに行ったコンビニ 駅ルートになる

どちらを通っても さほど散歩にかかる時間は変わらない
ならば 自分としては公園周りルートを選択したい

昨夜はビールを買う目的があったのでコンビニに行ったわけであり
今夜はコンビニで買いたい物は特にないし コンビニ 駅ルートは人とすれ違うことが多く
二歳児を連れて歩く姿が人目を引く
あまり多くの人に姿を目撃されると夏の夜の怪談話の1つにされる気がする

なので 自分は人けも少なく静かな公園周りルートを息子に お勧めしたいのだ

十字路に着くと息子は迷わずに左 コンビニ 駅ルートを選択した

自分は「そっちじゃないよ こっちだよ」と右方向へと誘導しようとするが
息子は「こっち こっち」と譲らない
半分 泣きながら言うので仕方なく自分はコンビニ 駅ルートを進むことにした

子供と言う生物は 1度でも気にいるとトコトンまで それを追求する習性があるようだ

嫁が借りたコッシーのDVDを飽きることなく見続けたりするのはいい例だろう
お陰様で自分の頭の中を 椅子の応援団がリフレインしているのは余談だ

そりゃ ないっすってね

息子はコンビニの近くまで歩いてくると そのまま店内の方へと進もうとした

自分はダメもとで息子に「今日は買う物がないから 寄らないよ」と言ってみる

すると

息子は店内に入って行った

やはりダメであった

そもそも息子は聞きたくない事を右から左へとスルーする 熟練政治家のような技をすでに身に着けている
いくら呼んでも反応しないことが多々ある

あれは分かってて聞こえないフリをしているのだ

息子と共に店内に入るとデジャヴか!と思えるほど 昨夜と同じように走って買い物カゴを手に取り そのままビールが置いてある冷蔵庫の前に行く

どうせ何かを買わなければならないのなら

今宵のダディはビールよりも缶コーヒーが飲みたい気分なのだ
と言うわけで自分は息子を抱き上げ缶コーヒーが並ぶ冷蔵庫前へと連れてくる

息子はビールを買わない事に かなり不服のご様子だったが
缶コーヒーが並ぶ冷蔵庫の扉を開けると 頭を切り替えダディが飲むべき缶コーヒーを選び始めた

息子が選んで手にしたのは400ミリリットルのボトル缶コーヒーだった

何故 つねに大きいサイズを息子は選ぶのか?

自分が普段 飲む缶コーヒーは よくあるレギュラーサイズ
息子の中には息子なりの道理があるのだろうが 今 それを知るすべはない

誇らしげにボトル缶コーヒーが入った買い物カゴを手にする息子に小銭を渡す

すると息子はレジへと駆け出す
缶ビールからボトル缶コーヒーに変わっただけで何もかもが昨夜と同じ流れ

しかもレジには 昨夜と同じ女子高生店員さん

女子高生店員さんの笑顔から察するに 自分と息子の事を覚えているようだ

まぁ 昨日の今日だし あまり この時間にいない客層だから覚えていてもおかしくはないだろう

会計を済ませ 昨夜と同じように買い物袋を持った息子を連れ店を出る

昨夜と同じように「おもい」と息子が呟き 昨夜と同じように抱っこして
カラー道路に行き駅に向かい電車を見て 家に帰る

これが息子の夜のルーティンとなった

夜の電車

電車を眺める息子
電車よりも嫁のセンスが圧倒的に光り輝く服が気になる

前面にはカブトムシと書いてある

コンビニに寄って缶ビールもしくは缶コーヒーを買い女子高生店員さんの笑顔を見てから
駅へ向かい電車を見る

このコンビニ 駅ルートの夜の散歩を1週間ほど続けた自分は
もう このルートも破棄すべき段階に来ていると感じていた

その理由としては 毎夜 コンビニで物を買う行為が無駄に思えて来たからだ

そもそも
まともに働かないから 必死で働かないから我が暮らし楽にならずを痛感している自分に
コンビニで毎夜 定価で物を買う資格などない

ディスカウントストアにて賞味期限間近の半額以下で売られている物でさえ贅沢と言える

今や顔なじみになった女子高生店員さんの笑顔が見れなくなるのは寂しい限りだが致し方ない

夜の散歩をするたびに軽くなっていく財布の質量を考えれば難しい方程式を使わずとも答えは自ずと出てくる

そこに相対性理論も質量保存の法則も関係ない
あるのは人類が作り出した等価交換の基本原理があるだけだ

物を買えば金が減る 金が減れば財布の質量は軽くなる と言う事だ

千円札で物を買い お釣りに小銭を貰うと質量は増えるが価値は減るぞパラドックスも存在するが 早い話 コンビニに寄れば金が減るのだ

自分は女子高生店員さんの笑顔を思い浮かべる……

当初 彼女の笑顔は愛らしい息子に向けられていたはずだ
小さな身体で大きな買い物カゴを持ちダディのために缶ビールや缶コーヒーを買う姿は
彼女の芽生え開花を待つ母性本能を強く くすぐった

彼女は その母性本能を二歳児の息子に毎夜 刺激され笑顔の中に愛情さえも伺えるほどになっていた

だが ある晩
彼女は ふと息子を温かく見守るダディの存在にハートを鷲掴みされる!!

そう ダディの中に男としての父としての強さと優しさを見たからだ!!!
その夜から彼女の笑顔は息子よりもダディ そう この自分に向けられるようになったのだ

コンビニ 駅ルートを破棄するとは 彼女の心を傷つけることかも知れない

想いを伝える所か さよならの言葉もなく あの人は行ってしまったと
ならば 最後に挨拶をすべきなのか

いや

何も言わずに去るのが彼女のためだろう
どうあがいても自分に彼女の愛を受け止めることは出来ないのだから
自分の心の中には すでに最愛の人がいるのだから

何も言わずに去ろう
その方が彼女も ひと夏の恋 あの人は夏の夜の夢だった と思うはずだ

結論は出た コンビニ 駅ルートを破棄する!!

自分の心は決まった

最初は気まぐれで夜の散歩をしただけだった
その日だけの夜の散歩のつもりだった

夜の散歩を始めてから1ヶ月と半月が過ぎた
気が付くと自分のウエスト周りが少しスッキリしていた

毎夜 歩いたお陰で痩せたと喜べる状況ではない 痩せたのではなくやつれたのだ

梅雨が終わり 夏が来た
そして真夏日 猛暑日と耳に聞こえてくる時期になっていた

夜でも暑い 息子と散歩をして家に帰ると大汗をかいている
日々の疲れは積み重なり腰は痛くなり我が暮らし楽にならず

そして 今 コンビニ 駅ルートの破棄

自分が そう決めても息子が承諾しないのは分かり切っている
コンビニでの買い物 駅にて電車を見ると言う 息子お気に入りの至福プレイを止める訳がない

女子高生店員さんの笑顔さえも切り捨てた非情を持って自分は息子に最終手段を使う事にした

その最終手段とは
息子よりも早く寝る事だ

ダディ思いの息子はダディが寝ていると決して起こそうとしないのだ

息子に気付かれないように布団に潜りこみ先に寝る

二歳児よりも先に寝る!!

そうすれば息子に夜の散歩をせがまれる事がなくなる

この方法は予想通り功を奏した
3日ほど息子よりも早く寝た結果 息子は夜の散歩の事を諦めたらしく せがんでこなくなった

時折 思い出したかのように「いこう」と言ってくるが
パソコンでユーチューブを見せると大人しくなる子供の習性を利用して夜の散歩を回避するようにしている

ただ 隣に座って一緒に見ないと騒ぐので
トミカのプラレールの商品紹介やら踏切が閉まり電車が通るだけの映像を繰り返し見る事になった

実は電車と言っているがディーゼルなので汽動車と言う

息子は電車ラブよりも踏切ラブなのではないかと思っている

般若

紙切れ