甘い始まり バレンタインデーの思い出

バレンタインデー

まだ 自分が ぼくであった時の頃

この日が来ると いつも思い出す

小学校五年生だった時の記憶を…

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第一章

小学校の五年生の ぼくのクラスに皆が気にする女の子が二人いた

その人気は もしかしたら学年で いや 全校生徒の中で一位二位を争っていたかも知れない

ひとりは 明るく元気な感じで 髪型はボブヘアーって言うのかな?肩に髪がつくほどは長くはなくて
でも横から見ると顔が隠れちゃって

彼女が授業中に何気なく指で髪の毛を耳にかけて横顔が見えると ぼくは何だか遠くから見ているだけなのに顔が赤くなってしまう

彼女は走るのが好きで 陸上クラブに入っていた

授業が終わった放課後に
夕日で赤くなったグランドを半袖の白い体操着と紺色のブルマ姿で走る彼女の姿は
その全てが夕日に染まっていて

彼女の軽やかに動く太ももや腕も 彼女の横顔も 揺れる髪も 淡いオレンジ色で ぼくには彼女が違う世界にいるような ぼくから遠く遠い所を彼女が走っているような気持ちにさせた

もうひとりの女の子は背中の半分ぐらいまである真っ直ぐで綺麗な黒髪のロングヘア―の女の子だ

物静かでおとなしい感じ たぶん その感じを おしとやかって言うんだろうな

体育とかは苦手みたいで よく見学をしていた

背も高くて何をするにも落ち着いていて 笑うときに目を弓なりに細め 指を軽く口に添えて小さく笑うのが お嬢様みたいで

教室の中で彼女のいる所だけ光り輝いているような かぐや姫とか白雪姫みたいな印象の綺麗な女の子  彼女は本当に綺麗な人だ

ぼくは彼女の近くにいるだけで 自分が とても幼く情けないと感じるときがある

彼女よりも ぼくの背が低いのもあったけど それ以上に 彼女の仕草や言葉が大人びていたせいかも知れないし

ぼくが読んでいたデジタル・デビル・ストーリーのヒロインの印象を彼女に重ねて見ていたせいかも知れない

彼女は小説とかに出てくる少女そのものだった

男子の心は いつも二人の存在で いっぱいだった
どちらが好きだ?って聞くと どちらも好きだと男子は答えただろう

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ぼくは その二人と同じクラスだ

髪の長い彼女を ぼくは気にしていたけど会話をすることはなかった

彼女自身が 男子と会話をすることも ほとんどなかったし
ぼくに彼女へ話かける勇気なんかなかった

席順でグループを作る時に 一緒の班になったりしたこともあって
彼女が ぼくに話かけてきたこともあるけど ぼくは彼女の声を聞くだけで話かけられるだけで 顔が真っ赤になって それを見られたくないから彼女から そっぽを向いて 緊張で どもりながら少ない言葉を返すので精一杯だった

授業中に彼女の姿を盗み見するので満足だった

美少女って言葉は彼女のためにあると
ぼくは本気で思っていた

2月14日

この日 小学校は朝から落ち着きのない雰囲気をしていた

誰もがバレンタインを意識していた

ぼくはクラスの女子から数個の義理チョコを貰った

その女子たちはクラスの男子全員にチョコを配っていた

放課後 友達と二人でトランプをしながら 誰か他に義理チョコや本命チョコをくれる女子が来ないかと待っていたけど 五分ぐらいで友達が「おれらにチョコくれる奴なんかいねべぇ 帰るべよぉ」と言うので
ぼくも そうだなと思い 早々に待つのを諦めて友達と二人で下校した

道路の横の街路樹を蹴りながら帰るのが ぼくと友達とのハマりで日課だった

石ころを蹴りながら帰ったこともあったけど 石ころが思い通り転がらないから帰るのが遅くなる
だから街路樹を蹴って帰ることに決まった

街路樹を蹴っても 冬の今の時期だと枯れ葉さえ落ちてこないけど…

散々 街路樹を蹴ったあと友達と別れた

友達とは途中から帰り道が違う
この辺から道路を走る車も減って静かな家が並ぶ道になる

ぼくは ひとり帰り道を歩く

遠くのほうに人影が見えた

ぼくは歩く

人影がはっきりしてきた 女の子のようだ
うつむいて じっと立っている

ぼくは歩く

女の子は あの長い黒髪の彼女だった 両手で小さなピンク色の袋を持っている

ぼくは彼女がチョコを渡す相手を待っているのだと すぐに分かった

だけど 心の中で驚いてしまった
彼女は毎年 誰にもチョコを渡していない 義理チョコさえも渡すことがない

ぼくは歩く

彼女が ぼくに気づく

ぼくは歩く

あと二 三歩で彼女の前だ

彼女が微笑んだ
ぼくは その微笑みに心臓が破裂しそうだった

そして
ぼくは彼女に ぎこちなく笑顔を返し 彼女の前を横切った

ぼくは歩く

彼女が気になり後ろを振りかえる

彼女は まだ うつむいて立っている 小さなピンク色の袋をギュッと握りしめて
ふと彼女が顔をあげた

そして ぼくのほうに駆け足をして近づいてくる

長い髪が軽やかに舞う

彼女が ぼくの前に立ち止まる

ぼくは近くで見る彼女の姿に 興奮し心臓が高まっていくのを感じた
でも 頭の片隅では
チョコを代わりに渡して欲しいとか 誰かを呼んで来てとか頼まれるのだろうなと思っていた

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続く