とろける続き ぼくに どうしろって言うんだ?

第二章

バレンタインデー

彼女の長い黒髪が風になびく
サラサラと音が聞こえるような艶やかで綺麗な黒髪

凛として真っ直ぐに ぼくを見る瞳

はにかみながらの笑顔

微かに震える両手でギュッとピンク色の袋を持っている

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彼女が そこにいるだけで世界が変わる気がした

冬の冷たい北風も ぼくは感じない 通りを走る車の音も  ぼくは聞こえない

ただ 彼女の存在だけを感じていた 彼女の息づかいだけを聞いていた

ぼくは彼女を前にして言葉がでない

内心は 彼女が目の前にいるだけで滅茶苦茶に喜び舞い上がっているのに

胸は高なり興奮しているのに

ぼくは彼女を前にして 黙っていることしか出来ない

寒空の下 ぼくと彼女だけが この世界にいるような
ぼくと彼女だけの世界のような不思議な感じ

時が止まればいいのにと心から願う ぼく

彼女が口を開いた

時は 止まらない

ぼくは頭の片隅に追いやっていた現実と向き合う
心の中にあった期待を捨て覚悟した

―さぁ 言いなよ 誰に渡せばいいんだ?
誰を呼んで来ればいい?―
ぼくは そんなやりとりを今日の休み時間に沢山 見た

クラスの女子にモテる奴が他のクラスの男子に呼び出され どこかに行きチョコを貰って帰ってくる
男子が あいつに頼まれたんだけど とチョコを渡しているのも 見た

―さぁ 言いなよ 誰に渡せばいいんだ?
誰を呼んで来ればいい?―

彼女は顔を赤らめながら
恥ずかしそうにピンク色の袋を ぼくの前に差し出した

ぼくは顔を彼女に見られたくなくて 彼女から顔をそむけながら
雑に それを受け取った

悔しいから 悲しいから 情けないから
好きな女の子のプレゼントを他の奴に渡すなんて

ぼくは横目で彼女の顔を見る

彼女は真っ赤な顔をして

「ありがとう 受け取ってくれて 私 嬉しいよ」と彼女は うるんだ瞳をしながら笑った

そして 軽やかな足音をさせながら去って行った

ぼくは ただ彼女の後ろ姿を見ていた

風に流れる長い黒髪が見えなくなるまで
彼女の姿が見えなくなるまで

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ぼくは 右手に持っているピンク色の袋を見た

ぼくに
ぼくに くれたのか?!

信じられなかった

だけど 誰かに渡してとか呼んで来てとは言われていない
ぼくだ

ぼくが貰ったんだ

ぼくは心臓が止まりそうだった
マラソンで いっぱい走っても ここまで胸が苦しくなることはなかった

嬉しくて嬉しくて
ぼくはピンク色の袋を胸の前に大切に抱え込み家へと走る

本当はスキップしたかったけど興奮でスキップの仕方を忘れた

だから ぼくは
ラグビー選手のようにピンク色の袋を胸に走る

光速の速さだ 今の ぼくは無敵だ スーパーマリオのスターの曲だ 敵はいない

家につくと ぼくは玄関で靴を脱ぎ棄て お母さんに ただいまも言わずに
部屋に 一直線に駆け込む

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続く