堂ヶ島温泉3 迫るフェリー出港時刻とロスタイム
清水の次郎長と お蝶の姿を拝見した自分達の次の予定は
清水エスパルスドリームプラザにての昼食である
だが 残念な事に自分は観光バスの中で
酒のツマミであるミニサラミと持参したグミを大量に摂取していたためにお腹が減っていないのだ
旅行での楽しみに食事は欠かせない
アンケートをしてランキングを作ったなら必ず上位に入るだろう
酒のツマミとしてのグミは!!必ずベストスリーに入ると自分は確信している
そんな乙な食べ物グミが今 自分を悩ます
昼食が用意されている清水エスパルスドリームプラザに到着するまでに
少しでもお腹を減らそうと自分は 昼食まで何も食べたり飲んだりしないと心に固く誓ったのだ
自分は 自らの誓いを守り抜いた
バスは清水次郎長資料館から 清水エスパルスドリームプラザへと10分で着いた
バスが清水エスパルスドリームプラザの駐車場に止まると旅行会社の添乗員のオッチャンが せかし始める
添乗員のオッチャンは
「店内は大変に込み合っています はぐれないように私の後に付いて来て下さい
ここでは昼食を食べるだけです 真っ直ぐに脇目をせずに昼食の場所に行きます」と言う
添乗員のオッチャンは ほんの僅かな時間のロスさえしたくないのだ
昼食を食べた後の予定は清水港から土肥港へとフェリーにバスごと乗り対岸へと渡る
もし乗り遅れたら陸路を湾に沿って走る事になるのだろうし 何よりも乗船チケットが無駄になる
それは添乗員さんにとってはオウンゴールに近い失態となるだろう
それだけは何としても避けたい
その添乗員さんの思いは この社員旅行に参加している全員の思いでもある
今回の旅行の うたい文句にフェリーから眺める富士山とあるのだ
フェリーから眺める富士山…
自分にとっては大きな峰の山より 大きな胸の谷間の方が何倍も何十倍も喜べるのだが
空気を呼んで 「是が非でもフェリーからの富士山 見たいよね~」と言うしかない
そんなわけで自分達は添乗員のオッチャンの後に一列になり 脇目も触れずに昼食のある場所を目指す
言われたとおりに前を見て歩いているから 見えるのは前を歩くオッチャンの後頭部だ
旅行が始まってから 自分はオッチャン達の後頭部ばかり見ている気がする
和食レストラン的な店内に入り 各自 席に着く
テーブルの上には まだ何も用意されていなかった
添乗員のオッチャンが急速に顔色を変えレストランの責任者と何やら話を始めた
トラブル!
恐れていたロスタイムが ここで起きた!!
自分達は予約した時間通りに来ているのだ
本来なら 席に着くと すぐに昼食が運ばれる手はずなのに 店側のミスなのか総勢29名の昼食の用意が まだ出来上がっていないと言う
しかも ミスは重なり 後から来た10名ほどの団体客の方に 出来上がっていた分の料理を出してしまったらしい
今から 急いで作ると言っても 当初の予定よりも大幅に遅れるだろう
添乗員のオッチャンの顔が怒りの赤から見事に真っ青へと青ざめていく
このロスタイムが悲劇の始まりになるのかと添乗員のオッチャンは考えたはず
そして あのサッカー史に残るドーハの悲劇の記憶が甦ってきたはずだ
添乗員のオッチャンがサッカーを観戦するタイプなのかは知らないが
自分は確実に覚えている あの瞬間を1993年10月28日に起きた あの悲劇を
記憶の中のドーハの悲劇
当時 自分は まだ15歳の可愛い高校一年生で その試合のテレビ放映は深夜だった
自分は早く寝ないといけないと思いつつもテレビから目が離せなかった
早く寝ないといけない理由は 次の日に早く起きないといけないからだ
自分の通っていた高校は 何故かガラにもなくディズニーランドへの遠足があった
それが明日だったのだ
高校生で遠足も変だと思うが場所も場所だと思う
不良が多々いた高校で ディズニーランド
笑顔で手を振るミッキーマウスに 「テメェ 何ガンくれてんだよっ!やんのかぁコラァ!」と言いそうな生徒もいるのに ディズニーランド
早く寝ないといけない だが 試合が気になる
そんなアンチバランスの心で見ていた試合は
まさかのロスタイムでの同点 そして引き分け ワールドカップ初出場を逃すと言う 喜びからの急転直下 ガックリと疲労だけが残る悲しい結果に
次の日の朝
眠すぎる目を こすりながらディズニーランドへの団体バスに乗った自分に
隣の奴が「昨日のサッカー見たか?」と聞いてきた 自分は「見てない」と答えた
そいつは落胆して「見てないのかよ」と言った
自分は「ああ ロスタイムで引き分けなんて知らないね」と言うと「見てるじゃねぇかよ!」と嬉しそうに 試合の感想を熱く喋りだした
これが自分のドーハの悲劇の思い出だ
ちなみにディズニーランドに行ったはずなのに そこでの事は覚えていない
ゲームセンターでゲームをしていたような気もする
添乗員のオッチャンも ドーハの悲劇からロスタイムの怖さを学んでいるだろう
あの時の日本代表の選手には清水エスパルスから4人が選抜されていた
清水エスパルスは 6人を選抜されたヴェルディ川崎の次に多く選手が選ばれたチームなのだ
ロスタイム そして 今いる場所は清水エスパルスドリームプラザ
嫌でも添乗員のオッチャンは連想してしまうだろう あのドーハの悲劇を
刻々と過ぎる時間
だが 添乗員のオッチャンには どうしようもない
料理場に行き料理を作れるわけでもない
ただ 祈る事しか出来ない願う事しか出来ない
あの時の 15歳だった自分と同じように
その時は来た
ジリジリと過ぎる時間 焦る添乗員のオッチャン 周りの客が食べているのを お預け状態の犬のように辛抱強く耐えている社員旅行参加者
そして 待ちに待った昼食が運ばれてきた
昼食は海鮮丼だった
お腹が減っていた人が多いのか 目の前に海鮮丼が置かれると 皆 すぐに食べ始める
自分も その空気に流され 目の前に置かれたと同時に箸を手に取り食べ始めた
お腹は減っていなかったのだが 周りが食べていると食べたくなるようだ
食べ始めてから 少したった時にエアー君が自分に
「赤原 こうゆう食事の写真とか撮っておいた方がブログに良いんじゃない?」と言ってくれた
確かに その通りだ
世にあるブログのメインは食事だ と断言しても おかしくないぐらい食べ物の写真があふれている
それを写真に撮らないのではブログにならない
自慢じゃないが 旅行先で写真を撮る習慣がない自分は
いざ 今回の旅行はブログのために写真を撮ろうと考えていても そのことを忘れてしまうことが多い
そもそも何を撮れば良いのかが自分には分かっていないのだ
自分はエアー君の助言を素直に聞き入れ 少し食べかけの海鮮丼を慌てて写真に収めた
誤解の無いように説明しよう
あまり美味しそうに見えないのは
自分の使うカメラの性能が低いのと自分の写真を撮る腕前が悪いせいだ
断じて この お店の料理が悪いわけではない
ましてや 食べかけの海鮮丼を撮ったせいでもないはずだ
食べ終わると食後の余韻を味わう暇もなく添乗員のオッチャンにバスへと戻される
それは しょうがない事だろう
ロスタイム中での行動の仕方が勝敗を左右する 最後まで気を抜いてはいけないのだ
自分達は添乗員のオッチャンの機械的かつ冷静な采配に従うまでだ
脇目も振らずに行動し黙々と食べ早々とバスに戻る
その おかげでバスはフェリーの出港時間に間に合った
自分達が勝利できたのは
あのロスタイムに諦めずに全力を出せた事が良かったのだと思います
そして 何よりも最後まで応援してくれたサポーターの おかげだと思っています
そんなヒーローインタビューが聞こえてきそうだ
ただ 自分は腑に落ちないのだ
清水エスパルスドリームプラザの外観と内観 食事をした店の名前もおろか店内の様子さえも思い出せない
脇目も振れずに行動していたので見ていないのだ 覚えているとか以前の問題である
本当に これで良かったのかと
勝負の世界に ああすればとか こうだったらとかを言っても意味がないのは分かる
だが もし
フェリーに間に合わなかったとすれば 乗り遅れていたらと考えてしまう
もし そうなっていたら
この旅行の初日は 過去に行ったことがある見た事がある 清水次郎長資料館を観光しただけで終わっていた
海路が行けないために 陸路をひた走り宿泊地を目指すだけの初日になっていた
添乗員のオッチャン! もう少し余裕のあるスケジュールで調整してくれよ
結果 フェリーに間に合ったから良いけどさ
バスの中から清水港を撮ってみた
昼食が遅れたので 休憩もせずに
ノンストップで バスごとフェリーに乗ったため 周りの風景が撮れなかった
せめて 自分達が乗り込むフェリーの写真を撮るべきだったと後悔している
続く