後編 俺には お前しかいない 変えてやるよ お前の人生を
彼女の2つめの願い
誰よりも素敵なドレスと靴を得た
彼女は誰よりも目立つ馬車を老婆にお願いしました
老婆は さぞ満足げに彼女の願いを聞き 杖を振るう
すると庭の畑にある大きなカボチャが それは豪華で派手な馬車に変わりました
老婆は このカボチャの馬車なら海を渡り お城に すぐにつくと言います
ただ魔法は夜の12時になると解けてしまうとも言いました
そして彼女はカボチャの馬車に乗り込み舞踏会の開かれている お城へと向かいました
お城では国中から集まった女性達が王子の心を掴もうとダンスをしています
国王の隣に座る王子は その様子をつまらなそうに眺めていました
絶世の美女がダンスをしても王子は見向きもしません
王子の結婚相手を探す舞踏会です
国王も心配になってきました
これほどの女性達が王子の気をひくために官能的なダンスをしているのに
何故 王子は心を動かされないのだ
国王は王子に言います
「わしが息子のお前のために開いた舞踏会だ それなのに主役である お前が座りこんで誰とも踊らないとは体裁が悪い わしの息子は痛いほど 立ちぱっなしなのにな!相手は誰でも良いからダンスの相手をしてこい!」
国王が王子を叱咤した その時 舞踏会会場の扉が開きました
会場内に どよめきが走ります
煌めく魔法の青いドレスを着て輝くガラスの靴を履いた彼女が現れたからです
「なんて 素敵なドレスなんでしょう」
「あれはガラスの靴?素晴らしいわ」
「凄く綺麗な靴だ」と皆 口々に称賛します
彼女は嬉しくてたまりません 皆が羨ましがるのが気持ちいいのです
一歩前へと彼女が進み出ると会場内の観客は彼女のために道を開けます
まるで海が二つに割れたかのように彼女の前から観客が退きます
そして彼女の前に出来た道の先には王子の姿が見えます
彼女は王子に向かい歩きだしました
誰でも良いからダンスをして来いと国王に叱咤されたばかりの王子は自分に向かい歩いてくる女性を見て 仕方なく重い腰をあげました
王子は席を立ち階段を下り広場へと向かいます
会場の皆が息を飲み見守っています
王子の結婚相手を探す舞踏会 今まで誰にも興味を持たず ただ座っているだけだった王子が広場の中央へと歩いているのです
彼女は広場の中央へ
そして 今 静まり返った舞踏会会場の中心で王子と向かい合いました
国中の女性が憧れ 継母と二人の娘が夢見た王子が彼女の目の前に立ち 彼女の手を優しく握りダンスへと誘ったのです
王子のダンスが始まると舞踏会は今までにない盛り上がりを見せます 皆 時間が立つのも忘れるほど舞踏会と王子のダンスに魅了されました
国王は舞踏会の成功を確信し 執事は複雑な心境で踊る二人を見ていました
王子は彼女とダンスをしながら彼女の履くガラスの靴のことを考えていました
このガラスの靴は どこの職人が作ったのだろうか?
このガラスの靴をプレゼントに出来れば 良い返事が貰えるかも知れないと思っていました
一方 彼女は有頂天でした
国中の注目を集めながら王子と踊っている最中も
横目で嫉妬や羨望の眼差しを向ける女達を見ては笑いがこみ上げてくるのです
特に継母や二人の娘がくやしがる姿が何よりも嬉しく思います
王子がダンスを急に止め彼女の眼を見つめました
彼女にガラスの靴を どこで手に入れたかを聞こうと思ったのです
急にダンスを止められた彼女は不思議がり王子を見ます
そして
王子の後ろにある時計に気が付きます 時計の針は12時になろうとしていたのです
12時になれば魔法が解け あの薄汚い服に戻ってしまう
彼女は王子を突き放し会場の扉へと走り出しました
王子は走り去る彼女に向け 「待ってくれ」と叫びます
その声を聞いた国王は執事に 「あの者を追え 王子の興味は あの者にある!追え!」と言いました
執事は慌てて後を追います
女の足は男の足ほど速く進まないと思いながら会場の扉を抜け城の外 長い階段へと走ります
彼女の姿が階段の下のほうに見えました
その先には豪華で派手な馬車が止まっています
男の足なら間に合うはずなのにと歯ぎしりしながら執事は懸命に走りました
彼女は馬車に乗り込み あっという間に去って行きました
12時を告げる鐘が鳴り響く中 執事は階段に片方のガラスの靴が落ちていることに気が付きました
執事はガラスの靴の片方を持ち国王に報告をしに行きました
国王は執事に言います
「手掛かりは そのガラスの靴だけだ 特注品であろうガラスの靴にピタリと合う者が あの女性に違いない 執事よ 王子のためにも探して来てくれ」
王子のため そう言われて執事は何としてもガラスの靴の持ち主を見つけたいと心に誓うのでした
次の日
執事は王子に旅に出る事を伝えずに お城を出ました
王子と しばらく会えなくなるのは辛いことでしたが会えば心が揺らぎ 優しい王子のこと旅に出るなと言われるような気がしたからです
こうして執事は数人のお供を連れてガラスの靴の持ち主を探す旅に出ました
国中を歩き女性達にガラスの靴を履かせてピタリと合う者を探す旅は大変な苦労と時間がかかることでした
しかし
執事は王子のためにと履いている靴の底が擦り切れてボロボロになっても諦めることはしませんでした
お城で執事を待つ王子は 執事の帰りが いつになるのか そればかりが気になって仕方がありません
1週間に1度 執事からの手紙が届くのですが 『ガラスの靴の持ち主は まだ見つかりません』と書いてあるだけでした
執事からの手紙が2通3通と増えていくに連れ 王子の心は焦燥感に包まれるのでした
王子が諦めて帰って来いと返信しても 執事は『必ず見つけます』とだけ書いてくるのです
王子が6通目の執事からの手紙を開けた時 手紙が埃っぽくて かすかに黒ずんでいるのに気が付きます
手紙の内容は
『今 火山のある小さな島に来ています 調べていない女性達は この島の中の女性だけです もうすぐ ガラスの靴の持ち主が見つかり お城へと連れ帰ることが出来るでしょう』と書いてあったのです
王子は微笑み やっと帰って来るのか と呟きました
火山の島で
執事達は火山のある小さな島の町に行きました
そこで女性達を集めガラスの靴を履かせます
でもピタリと合うものがいません 執事は町の住人に他に女性はいないのかと聞きました
誰かが火山の近くに大きな屋敷があって そこに女性が4人暮らしていると言いました
執事達は噴煙が立ち上る火山を目印に屋敷へと向かいます
屋敷につくと中から 妖艶な美しい中年の女性と とても可愛らしい顔をした二人の若い女性が出てきました
そう彼女の継母と二人の娘です
3人はガラスの靴を無理やりにも履こうとしますが どうやっても合いません
執事は そんな3人を見ながら「もう1人 女性がいるのでは」と聞きます
継母は思い出したかのように屋根裏部屋の彼女を呼びに行きました
そしてガラスの靴の前に薄汚れた服を着た彼女が来ました
彼女がガラスの靴を履こうとした
その瞬間 大きな地震と轟音が起きました 火山が噴火したのです
火山から噴煙が立ち上り大きな屋敷の方に黒い煙が迫ります
継母は二人の娘と彼女の背中を押し屋敷の中へと入り 扉を固く閉ざしてしまいます
残された執事達は町へと逃げるために一目散に走り出しました
後ろからは木々をなぎ倒し噴煙と灰をまき散らしながら土石流が執事達へと向かってきます
お城の王子
お城で執事の帰りを待つ王子は 火山が噴火した噂をを聞いて胸が張り裂けそうでした
王子の落ち込みは酷く 食事も食べずに自室に閉じこもっていました
そんな時 家来の1人が廊下から叫びます「執事どのが帰られた!」
王子は家来に すぐに執事を この部屋にと言いました
しばらくすると部屋に執事が入って来ました
その姿は噴煙で頭から真っ白に汚れた状態でした
執事は王子の前に立つと 大きな胸に大事に抱えていた片方だけのガラスの靴を王子に差し出しました
「王子 申し訳ございません ガラスの靴の持ち主を見つける前に帰って来てしまいました」
王子は言います
「そんなことは もう良いのだ」
王子は執事の姿を上から下まで見ます
火山灰は執事の顔まで白く染め 履いてる靴は擦り切れボロボロです
王子は執事の足元に ひざをつけて しゃがみながら言いました
「俺には お前しかいない 変えてやるよ お前の人生を」
王子は執事のボロボロになった靴を脱がせ片方だけのガラスの靴を履かせました
「王子…?」
「本当は お前に合ったガラスの靴をプレゼントしたかったのだが 今は サイズの合わない片方だけのガラスの靴で我慢してくれ」
「王子 私は代々 執事を継ぐ家系です 幼き頃から王子と共に育ってきたのも王子の執事になるためです」
「もう お前は執事ではない 俺の婚約者だ 国王に会いに行こう 俺が認めさせる」
「王子…」執事の眼に涙がこぼれて来ました
「でも その前に その灰被り(シンデレラ)の姿を綺麗にしないとな 俺が洗ってやる 幼き頃のように共に風呂に入ろう」
「はい 王子」
執事は大きな胸を両手で隠し 温かい お風呂に王子と共につかりました
王子は執事の胸をさわり
「胸は格段に成長したな 大きなカボチャみたいだ」と笑いました
執事は王子の胸に頭をつけ
「ああ 王子 恥ずかしいです」と言い「王子も子供の頃より ご立派になられて」と息をのみました
そして二人は結婚し末永く幸せに暮らしました
……
……
暗い洞窟の中 老婆が頭に角があり口には鋭い牙をはやした異形の者と話をしていました
「魔法使いの婆さんよ 今回は失敗だったみたいだな」と異形の者が言いました
老婆は
「相手が悪かった 2つまで願いを叶えたのじゃが あの女 優柔不断で決定力もなく 現状を維持するだけ自ら何かをしようとするタイプではないから3つ目の願いを決められなかったんじゃ」
異形の者は笑いながら
「3つの願いを叶え魂を貰う 俺ら悪魔の仕事も 楽じゃないな」と言い
老婆は苦笑しながら うなずきました
一方 彼女の方はガラスの靴の紛失届を警察署に出していました
おしまい
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