オペってきたぜ 3 手のひらと第三の目

今 自分は何を言えば良いのか?

この粉瘤摘出手術の最中に巻き起こった困難に対して最善の答えはあるのか?

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ベッドに うつ伏せになり組んだ腕を枕がわりに顔を乗せていたせいで
自分の腕は極度に痺れ 腰は うつ伏せの姿勢により負担がかかり激しく痛み出し
ジジィの先生は40代看護師と楽しそうに仲良く笑う

自分に出来る選択は3つ
「先生 腕が痺れたので動かしていいですか?」 と聞く
腰が痛くて辛いんですけど」 と泣きを入れる
「自分だって先生たちと仲良く笑いたいです」 と友達申請する

今 自分は何を言えば良いのか?

マッサージ

もしかしてだけど

まずは状況確認だ
それから何を言うべきか冷静に判断する

まずは 腕の痺れだ

腕の痺れは どのぐらいまで我慢ができるのか 我慢をし過ぎると どうなるのか

痺れると言えば正座
日本にいるなら避けることが出来ない 正座をしなければいけないシチュエーション
正座で足が痺れる経験は多くの人が経験している

足が痺れて すぐに立てなかったと言う話は良く聞くが その後 身体に問題が起きたとは聞かない

ならば
痺れが強くなっても何とかなると言うことか それならば もう少し待ってみよう
本当に限界だ!と叫ぶほどの痺れになるまでは我慢してみよう

では 次の問題 腰の痛みだ

これは切実な問題だ

過去に椎間板ヘルニアになって1年間 痛み止めを飲んでいたことがある自分には腰の痛みとは恐怖の対象であり つねに隣に存在する悩みのひとつだ

そのせいで騎乗位じゃないと自分は 話が逸れた

まぁ なんにせよ 自分は些細な腰の痛みさえ避けたいのだ

こうなると先生に言うべき言葉は 「先生~ 腰が痛くて辛いんですけど」 に決まりだろうか

だが
腰の痛みに悩まされてきた自分は腰の痛みへの対処法も 多少 経験から学んできた

ほんの少し ほんの少し手術中の先生の邪魔にならない程度 ほんの少し体をひねれば この腰の痛みも軽減する

まだ腰の痛みはリミットを迎えていない まだ来ないリミットは
まだだ まだ 耐えられる

Мならば Мの素質が自分にあるならば 腰の痛みも姿の変わった愛の形として受け入れられる
許容範囲を超えるまで耐えてみよう 愛が壊れるまで Мの心が砕けるまで耐えられるはずだ

消去法により何を言うべきかは 「自分だって先生たちと仲良く笑いたいです」 と友達申請するになった

そうか それが自分の脳が導き出した答えか
さすれば従うまでよ 自分は乾いた唇をペロっと舐め 喋り出す準備をした

「敵がいるから仲間がいる!味方がいるんだよ!分かるか?赤原!!!」
突如 脳内に響き渡る 我が友エアー君の声

そうだ そうだったな エアー君

敵がいるから仲間が 味方がいるんだよな
ただの表面上の繋がりではなく
いざという時 本当に困った時 どうしようもないバカをして世間から軽蔑され嫌がられても 「何やってんだよ」 と笑ってくれる

何をしても どんな状況になったとしても 「どうしたんだよ(笑)」 って 「飲みに行くべよ」 って

世間や常識に左右されない揺るぎない繋がり ぶれない心
どんなに落ちぶれても!犯罪者になったとしても!

「だって 俺とお前 友じゃん」 と軽く言える気持があってこその仲間なんだよな

自分は弱っていた ひよっていた

気になるから 楽しそうだから そんな気持ちと気まぐれで友達申請をして仲間になったところで
それが何になる 後々 面倒くさいくなるだけだ

うわべだけの付き合いを繰り返し
相手に合わせ面白くもないのに笑うような 無駄に気を使いストレスを重ね どうでもいいことに興味のないことに それっぽく返信して自分自身をすり減らす

そんなの要らない そんな関係なら なくていい

わかったよ エアー君

今 自分が言うべき言葉が見つかったよ それは
「何 手術中に人の背中の上でヘラヘラ笑っているんだよ!!このジジィがぁ!!」 だよな

そうだよな エアー君
友達拒否申請が答えだよな

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自分は乾いた唇をペロっと舐め 喋り出す準備をした
「な」 と自分が言うと同時に先生が 「こ」 と言った 二人して同時に声を出し最初の一文字が重なる
「え?」 と先生 「あっ」 と自分

お互い相手が喋り出すとは考えていなかったので変な戸惑いと間ができた

「えーと どうかしましたか?」 と先生が言い
自分は 「いえ 何でもないです」 と慌てて答える
「そうですか あ えーと これで手術は終わりました」 と先生が言った

続けて
「縫ったので抜糸は十日後ぐらいになります 時間があるときに来てください では お大事に」 と言いながら あっさりと先生は去って行った

残ったのはベッドにうつ伏せの自分と年上看護師さんだ

年上看護師さんは背中の手術した所に何かを張っている
手のひらで撫で空気を押し出し念入りに張っているようだ

年上看護師さんの手のひらは温かく柔らかい
その手で背中を撫でられていると自分が欲しかったのはこれだったのかと思えて来た

久しく感じていなかった感覚 気持ち良さ

手当てをするとは 読んで字のごとく手を当てることからきている
手のひらの しわとしわを合わせると しわあわせ

ああ 気持ちいい 癒される

背中をさすられるのが撫でられるのが こんなに気持ちいいなんて
女性がエステに行くのは 女性の手で撫でたり揉んだりしてもらうと気持ちが良いと知っているからか

年上看護師さん もっと もっと背中を撫でて下さい
「はい これで手術は終了です」 と年上看護師さんは言った

現実は無慈悲だ 望みも希望もありゃしない

落胆する自分に向け 年上看護婦さんは術後の説明を始めた

「背中に張ったのは防水シールですので お風呂に入っても大丈夫ですよ」
「!」 それは年上看護師さん 誘っているのか 自分の事を お風呂に一緒に入りましょうと

「防水シールが取れてしまったら家でガーゼを張って すぐに診察に来てください」
「!!」 それは年上看護師さん 防水シールを剥がして すぐに私に会いに来てって事か

「抜糸は十日後になります お疲れ様でした お大事に」
「!!!」 それは年上看護師さん 十日後にデートしましょうと言う事か!!
お大事にとは大好きですと言う事と同じ意味ととらえていいんですよね

十日後の再会を楽しみにしながら自分は手術室を出て 受付でお金を払った

最初 先生は一万円ぐらいかかると言っていたが実際は四千二百円で済んだ
手術にかかった時間は四十分ほどだった

薬が出ているので薬局に行き薬を貰う 痛み止めと化膿止めだ
こうして自分は無事に手術を終え家に帰る

封じられた背中と小さな疑惑

家に帰り しばらくすると背中の手術した所がチクタクと痛み出した

麻酔が切れて来たのだろう
痛みとしては軽いものだが 背中の中心に痛みがあるのは落ち着かない

しかも その痛みは 一定の周期を持ってチクタク痛むのだ
チクチクと言うよりもチクタク

自分は自分の背中の手術後を見ていない
手術中に何をされたのかも知らない

確率的には低いだろうが可能性としてはあり得るハズだ
自分の背中の粉瘤を取った後にジジィの先生が時計を埋め込んだ可能性が

だから周期的にチクタクと痛む
せめて時計がアナログではなくデジタルだったならチクタクしなかったかも知れない

そんな事を考えていたら あっという間に夜がきた

仕事を休みにした金曜日が何をするわけでもなく過ぎて行く

変に動くと背中が縫ったところで引っ張られ糸が切れるんじゃないかと心配になるので
何もしないのが正解とも言える

自分は明日も明後日も休みなのだから今日はシャワーで身体を洗い 明日の休みに備え早々に寝ることにした
さすがに防水シールが背中に張ってあると言っても湯船に背中をつける気にはならない

寒いけどシャワーで我慢する
カラスの行水のようにシャワーを浴びてタオルで身体を拭く

あれ?おかしい

拭いた背中が まだ濡れている もう一度 背中を拭く やはり変だ 濡れている感覚がある

自分は嫁を呼び背中を見てもらう
「貼ってあるシールの中に水が入っているわ」 と嫁が言う

防水シールが役に立っていない
中に水が入り縫った傷口を抑えているガーゼも水浸しになっている

嫁に防水シールを剥がして貰いガーゼを換える事にした

ガーゼを剥がし 縫ったばかりの傷口を見た嫁の第一声は 「キモッ!」 だった
自分は旦那だぞ 旦那に向かってキモッとは何だ 失礼にもほどがある

ちゃんと自分の目で確認した方が無難だろう
自分はスマホのカメラで写真を撮って貰う事にした

そして始めて背中の縫った傷口を見た自分は
「キモッ!」 と嫁と同じ言葉を言っていた

自分は何となく縦に切って手術をしたと思っていたが 実際には横に切ったようだ
切った長さは四センチほどか それを黒い糸が上から下へと縫い合わせている

例えるなら
つけまつげを付けた目を つぶっている状態に似ている

何かの拍子で目を覚ましギョロリとした目玉が こっちを見るんじゃないかと不安になる

自分は嫁に 「早く ガーゼで封印して!起きちゃう!」 と言い
嫁は 「え? 何?起きちゃうって誰が?」 と戸惑いながらガーゼを張る

まつげ

背中にある第三の眼は起きる事もなく静かにガーゼの下で眠りについた

そして自分も布団の中で眠りに付くことにした
上を向いて寝ると背中の傷口が痛むので横向きに寝る

明日の土曜日は防水シールが剥がれたので皮膚科に行き 年上看護師さんに背中を撫でて貰わないといけないなと思いながら

終わりへの経過

土曜日の午前中に皮膚科に行く

年上看護師さんが防水シールを また張ってくれたのだが 今回は指先で押し付けるだけで自分のお気に入りの手のひらで背中を撫でて貰うがなかった

「なるべく背中に汗をかかないように」 と年上看護師さんが言うのだが無理難題に近い
自分は己の力で汗をコントロールできる能力を まだ会得していない

その日の夜は親分とエアー君との月一恒例飲み会だ
焼き鳥屋で日本酒の濁り酒を飲んだら 皆して酔い収拾がつかない状態に

ガールズバーやらチェーン店の居酒屋にも行ったが酔いが辛い

次の日の日曜日は 夕方まで二日酔いでダウン
三連休の最終日を寝て終わる

手術から十日後

自分は抜糸をしてもらいに皮膚科に

当然 その日は仕事を休んだ 深い意味はない ただ仕事を休みたくなっただけだ

実は この皮膚科 曜日によっては夜の8時まで開いている
仕事終わりでも十分に間に合うのだが そのことは嫁には内緒にしている

「抜糸があるから仕事を休まないといけないんだよ 困ったな でも しょうがないよね 抜糸だもん」 と言ってある

抜糸は5分もかからずに終わった
先生が言うには 経過は順調らしい

4日後ぐらいに 様子を見たいので来てくれと言われたが
自分は その後 皮膚科に行っていない 面倒くさくなってしまったのだ

何だか春が来たと思えば また寒くなり天気も悪いしで行く気が起きなくなった
皮膚科までは歩いて数分なのだが……

これが自分の粉瘤摘出手術の全貌である

今は多少のかゆみが起きたりするが 傷跡は かなり薄れてきて 綺麗に消えるのも時間の問題だろう

背中を撫でてくれた年上看護師さんの手のひらのぬくもりと感触も薄れて消えていく

全てが冬に降った雪の如く 春になれば消えて行く

オペってきたぜ 終わり

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