運命のコイン 表

2017年11月1日

生憎の雨の日だった

傘を差して歩くべきか迷ってしまうぐらいの弱い小雨が朝から降っていた

そんな日は心さえも晴れやしない
自分は重い気分のまま何とか午前の仕事をやり切った

やっと昼食の時間だ

今日の昼食は 朝 会社に来るときに買って置いたアンパンメロンパンフレンチトースト

フレンチトースト 早い話 食パンの砂糖ミルク卵漬け

幼児向けアニメキャラクターそろい踏みって感じの昼食
これでドキンちゃんがいれば最高だが 昼間からピンクな期待をしてる場合じゃない

自分は窓の外に目を向ける 小雨は まだ降っている
今なら傘を差さずに自販機まで行けるか…

自分は おもむろに腰をあげた

この幼児アニメ的昼食を食べるには飲み物が必要不可欠だろう
飲み物もなしで戦えば バイキンマンの如く苦戦し敗北するのは目に見えている

特にアンパンは強敵
厚み 甘さ どれを とっても歯が立たない

…パンなのに…

自分は会社を出て雨の中を自動販売機に向かい歩き出した

思ってたより降っている いや 違う 雨が徐々に強くなっているんだ
これから本降りになるのか?
傘を差してくるべきだったか?

自販機まで2分もかからない 往復3分強 大丈夫!
急げば たいして濡れないで済むはずだ

服の表面が少し濡れてきた頃 自分は青く染められた自動販売機の前についた

自動販売機に二百円を入れ 温かい缶コーヒーのボタンを押す
 違和感 反応がない
ピッとかカチッとかの確定音がしない

売り切れかと自分は慌てながら 温かい お茶のボタンを押す
しかし これも反応なし
当然ながら缶が落ちてきた時に発する豪快なガゴンの音もない

ヤバい 嫌な予感がする

自分は急いで お金返却レバーをガチャガチャとひねる

だが 二百円はお金返却口から出て来なかった 

喰われた!自販機に!
無駄に 無駄に二百円が喰われた!

自分の二百円が無駄に自販機に喰われた!

何のために自分が雨の降る中 自販機まで来たのか?
それは自販機に二百円を恵んでやるためではない

断じて言う!

自販機にタダでくれてやる 金はない!

相手が賽銭箱や後ろ向きに投げて入れると願いが叶う噴水なら 話は別だ
だが
お前は青い自販機!商品 出してナンボのモンだろ!

まさか!自分の願いを聞くというのか?!
自分は おもむろに両手を合わせて青い自販機を拝む
わけねぇーだろ!ぜっったいに願いは叶わない

相手が自販機では叶うはずがない!
自分の願いは二百円 返せだ!

雨は小降りになり 服は濡れ身体は冷たくなってきた

自分は胸ポケットからスマホを取り出した
故障時などに連絡するサービスセンターに電話するためだ

しかし
サービスセンターへの電話番号が書かれたプレートが 自動販売機の正面を探すが見当たらない
ならば 側面か?

自分は自動販売機の左右を上から下まで見る やはり ない

自分の髪は毛先から水が滴るほどに濡れてきている 体は冷え寒い
だが 頭の中は激怒で熱い

てめぇ!ふざけやがって!故障時の対応先を張って置くのは常識だろ!
商売する側のマナーだろ!

これじゃ詐欺だ 商品 売るって言って金だけ取るのは立派な詐欺だ
出会い系からライン誘導して
エッチな写メ送るから ここに登録してって言う女(たぶん男)よりも悪質だ

自分は この時 正常な精神状態ではなかった

困惑 怒り 空腹 濡れていく服 強くなってきている雨 冷える身体 朝からの憂鬱 微笑んでくれない会社の女子社員 出会えない出会い系 昼休みの時間的制約 守られなかった常識

自分は青い自動販売機の側面を つま先で蹴りこんだ

鉄のロッカーに小石が当たったような音が 雨音の染み込む静かな通りに響く

自動販売機から缶ジュースが滝のように あふれ出てくる
のは 古いアメリカ映画だ
現実は自分の足が強烈に痺れたのと通りを歩く人をビビらせ変な目で見られただけだ

万策つきた 抗議の電話も出来ない 蹴りもダメ

雨に打たれポッツンと青い自動販売機の前に立つ自分

当てもなく周りを見渡した時 自分は ひと筋の救いを見出した

この自動販売機と同じ青い自動販売機が通りの先に見えたのだ
色が同じという事は同じメーカーが管理しているのだろう

その自動販売機ならサービスセンターへのプレートが張ってあるかも知れない

自分は雨の中 その自動販売機まで走り出した

痛む片足を かばいながら

続く