秋なので旬のサンマで嫁に ちょいキレる

2025年4月13日

実りの秋 到来

秋と言う季節は 春や夏 冬に比べると極端に短く感じる
夏の照り付ける日差しの中に 少しづつ涼しさを感じ始め緑の木々が紅葉していく

ふと顔を上げると柿の木にオレンジ色の実が枝をしならせるほど実っている

夏が終わった
秋が来たんだ と実感する

だが 秋と言う季節は 夏と冬の狭間に存在する通過点
秋がもたらす涼しさは 記憶に残る間もなく冬へ近づき寒さをまとう

冬が来る前に 生物や植物は種を残す
それは ため込んでいた生命力を次の代へと移すため強く輝き解き放つ瞬間でもある

ゆえに秋は 食欲の秋なのである

さぁ サンマが旬だ

秋が旬と言えば多々あるだろう
松茸を代表とするキノコ類 柿や栗などの果物 サツマイモ 秋ナス カボチャ

そして 忘れてならないのがー

夏の解放感に素肌を露出しながら 海だ山だロックフェスだと はしゃぎ回っていたのに
秋が来ると 途端に素肌を隠し 物憂げに振る舞う女性

独り身である事が 否応もなく強く寂しいと感じさせる 来るべき冬 クリスマス 年末からの新年メランコリック ノスタルジック
秋空が 赤い夕焼けが人恋しさを加速する

秋が旬だと言わずに何時が旬なのか?

ああ! 食べたい! 食べ尽くしたい!
夏にため込んだ その生命力を! 少し増えた脂肪を!
ぽっちゃりな お腹を!
秋の旬をむさぼり吟味し堪能したい!心ゆくまで!

生でもいい!

サンマが食べたい!

待望の『サンマの塩焼き』が問題だった

仕事を終え 家に帰った自分は
玄関を開けると同時にサンマの焼ける香ばしい匂いに迎えられた

晩御飯は サンマの塩焼きだと心がわずかに弾む

自分は 晩御飯の準備が出来るまで 我が書斎にて時間を過ごすことにした

書斎と言っても 本棚には漫画の比率が高いしパソコンでゲームをしたりするだけなので ただの引きこもり部屋でしかないのだが 書斎の方が聞こえが良い

息子よ娘よ ダディはダディになっても半ニートなのだよ

しばらくすると息子が晩御飯が出来たよと呼びにきた
自分は息子にしたがい食卓にいく

すでに食卓には サンマの塩焼きが置いてあった

自分は それを一瞥すると微かに眉をひそめる 嫌な予感しかしない
サンマの塩焼きは 小ぶりの白い丸皿に盛られていたのだ

頭と尻尾が皿からはみ出している
しかも サンマの塩焼きは 皿に沿う形に盛られているので お腹を中心にアーチを描いている
それは Uの字よりも ひの形に似ていた

見た目は悪い
だが 味に問題はないはずだ 自分は箸で身をほぐす作業に入る

嫌な予感は… 的中した

サンマの塩焼きはアーチ状に反っているために 中心の腹へと骨が密集し身が上手く取れない

ほぐすたびに 身と共に細かな骨がついてくる
イライラと悪戦苦闘する自分に嫁が語りかけてきた

嫁の話を要約すると

今までは子供が小さかったから サンマの塩焼きを胴の中間で半分に切っていたけど 今日は 切らずに そのままだしてみた

と言うことらしい

まぁ 確かに今までサンマの塩焼きは半分に切られていた
頭の方 尻尾の方と分けられていた

尻尾の方が 骨が取りやすく内臓もないので食べやすい
なので 尻尾の方は子供が食べる

丸い皿に盛られたサンマの塩焼き

普通 焼き魚などは平らな長方形の皿に盛られるものだ

皿の形が違うだけで ここまで食べやすさが変わるのか と自分は新鮮な驚きと同時に心底の怒りを感じながら サンマの塩焼きを身と骨に分けようと箸を繰り出す

自分は腹ペコである
とても 腹ペコである

美味しいサンマの塩焼きをホカホカご飯で食べたい
なのに ほぐした身は細かな骨にまとわりつかれ 口に入れると歯茎と喉をチクチクと刺してくる

これが またイライラを増すのである

サンマの塩焼きは腹をいじくりまわされ身と骨と内臓が ごちゃ混ぜになっている

悲惨かつ無惨

ふと自分は丸い皿に盛られた焼きサンマを俯瞰して見てしまった

そして破裂した
腹ペコが イライラが チクチクが

凝縮され圧縮されて律動していた小さな不満の集合体が 俯瞰で見たサンマの塩焼きの あまりにも陰惨な事故現場のような姿により臨界を越え 破裂した

「猫が食べ散らかした残飯 食えって言うのか!」

自分は怒鳴った
怒ってはいるが悲しかった

サンマが
旬のサンマが食べれない

平らな皿じゃなきゃ焼き魚は食べれない
怒りのなかでたどり着いた真実

嫁は困り顔で言った

「ごめんね うち四角い お皿ないの」

「え!?」

「私は細かい骨なら 食べちゃうし」

「そうなの!?骨 食べちゃうの!?」

唐突に怒りが引いていく

だが

鞘から 一度抜いたなら 血を吸うまでは鞘に戻らない
そんな妖刀 村正みたいな男である自分は後には引けない

自分は嫁に通告する

「…代わりに骨 取ってよ」

ちなみに 曲げた状態でサンマを焼いてから 伸ばすと骨が取りやすくなるそうだ

般若

紙切れ