コウモリ エアコン ハイル 4 クレーム処理の結果

決戦の時が来た

今までの困難 混乱は序章でしかない

準備は?作戦は?勝算はあるのか?
忘れ物はないか?スマホは持ったか?ズボンのチャックは閉まっているか?!

体勢を整えろ!!決意を強くしろ!!いざ最終ラウンドへ!!

蝙蝠

第4ラウンドへの心得

自分は ついにエアコンの中に潜んでいたコウモリを捕獲!もとい無事保護した

今やコウモリはコンビニ袋の中で 時折カサカサと音を立てながら静かに時を過ごしているだけだ

自分は外したエアコンを元に戻し安堵した

コウモリが部屋の中を飛び回る事無く保護出来たのは僥倖でしかなかった
最悪 コウモリが飛び回り阿鼻叫喚状態になる可能性もあったのだ

これで全てが終わった様な気がした

自分を駆り立てたエアコン担当者への怒りも達成感と疲労により薄れている
いや 薄れたと言うよりも無いにも等しい

終わったんだよ これで……

自分は そう思いながら様子を伺っていた嫁に微笑んだ

嫁は微笑む自分を見ながら
「本当に大型電気店に行って来る気なの!?エアコン担当者に怒りをぶちまけるの!?」と言ってきた

どうやら 嫁は電話越しにエアコン担当者に小馬鹿にされた事と自分が怒りの最高潮の時に言った言葉を良く覚えているらしい

語尾に疑問符がついた喋りではあったが
その嫁の真意 結果はどうあれ文句を言うだけ言って来い!!と言うのが垣間見えた

自分は 熱しやすく冷めやすいタイプだ しかも それほど後まで尾を引かない
黒歴史時代に感情切り捨て型を目指した後遺症なのかも知れない

怒りのボルテージが急速に下がった自分を叱咤するかのような嫁の言葉

確かに

大型電気店に行き「絶対にコウモリが中に入る事はないです!!」と言ったエアコン担当者に
その大きな間違いを指摘し買ったばかりのエアコンの交換壁の修復をしてもらう と嫁に言ったのは まだ記憶に新しい

言った事をやらないのは 信頼と威厳に――すでにないに等しいが――傷が付く行為だ

それを自覚している自分は 普段は なるべく下手な事を言わないように気をつけているのだが
あの時は怒りに任せ言ってしまったのだ

しかも
「コウモリが入ってエアコンと壁が汚れたから大型電気店に話をつけに行く」と友エアー君にも自分は公言していた
エアー君の見解では 「良くてエアコンの交換ぐらいじゃないか?壁の補修は無理だよ」だったが

何にせよ今更 後には引けそうにない
自分は うなだれ うつむきながら自室に行った

嫁には その姿が今にも吹き出さんとする怒りを懸命に抑える男の姿のように感じたみたいだった

自分は自室に入ると パソコンにデジカメで撮ったエアコンの写真を取り込みプリントアウトした

これが決定的な証拠写真になるだろう
(今回のブログに載せた写真である 当然キラキラ処理はしていない 無修正だ)

しかし
これだけではエアコン担当者に対して弱い まだ強烈な一撃にならない気がした

どうせ大型電気店に行きエアコン担当者と話合わなければならないなら それ相応の準備が欲しい

自分はエアコンのある部屋に戻り
エアコンの下 コウモリのフンが落ちて床を汚さないようにと置いといた紙を手に取り
その上にあるコウモリのフンをティッシュペーパーに移す

そしてティッシュペーパーが破けないように優しく折りたたむ
これが有無を言わさぬ物的証拠

物的証拠 これはエアコン担当者に思わぬダメージを与えるはずだ

だが こんな事ではエアコン担当者は倒れないだろう

自分は白いコンビニ袋を見つめる
これが止めの攻撃 必殺の奥義 自分の切り札 不規則にカサカサと音を立てる白いコンビニ袋

そう!!その白いコンビニ袋の中には保護したコウモリが静かに時を待っているのだ

これが事実を知る重要参考人である

これで全ての準備は整った
今の段階では勝算は分からない 五分五分…いや それよりも低いかも知れない

それでも
自分は自分が唯一取れる作戦 奇襲作戦をすることにした

奇襲作戦

これは戦術の中でも重視される優れた考え方である
少数が大勢に向かう場合 個が個と戦う場合にも当てはまる

かの剣聖 宮本武蔵も奇襲 奇策を多用した
敵の不意を打つ事こそ勝利への近道である

自分は証拠品の数々を入れたカバンと コウモリが入った白いコンビニ袋を持ち部屋を出る

そのまま玄関に行き 靴箱の上に置いてある車のカギを手に取り 後ろを振りかえった

そこには玄関まで見送りに来た 嫁と2歳の息子の姿があった
2歳の息子は 一緒に行きたいと言いながら泣きじゃくっていた

すまない 息子よ 連れては行けないんだ
ダディには しなければならない事があるんだ

嫁は一緒に行きたがる息子を抱きしめ 走り出さないように必死に止めている

大丈夫だ 安心してくれ ダディは無事に帰るさ
そう遅くならないうちにな

自分は心の中で そう息子に語り掛けた
それは自分自身への覚悟を決める言葉でもあった
消えかけていたエアコン担当者への怒りが 激しく燃え上がるのを感じた

自分はドアを開け家を出る
閉まるドアの隙間から 息子の泣き叫ぶ声が聞こえた

その声は
「おそとで いっしょにあそぶ!コウエン!コウエン!」と言っていた

第4ラウンド 自分vsエアコン担当者

大型電気店に向かい車を走らせながら自分は怯えていた

頭に浮かんでくる恐怖だ それが自分を怯えさせている

奇襲作戦とカッコよく言っては見たが
実際は ただエアコン担当者に電話して会う約束をするのが面倒だから 電話をしなかっただけだ

もし仮にエアコン担当者に電話をしていたら
「会って話すまでも無いですよ この場合 当社では何も出来ませんので(笑)」で終わっていた事かも知れないのだ

それは このまま実際に会っても同じかも知れない

その恐れは確かにある が

本当に今 自分を怯えさせている 恐怖は それではない

車の助手席 その上に置いた数々の証拠品を入れたカバンと白いコンビニ袋
そこから漏れ聞こえてくる乾いた音 それが怖いのだ 恐怖なのだ

その音は白いコンビニ袋に入ったコウモリが身じろぎをして立てる音だ

カサカサ と
カサカサ と

コンビニ袋の中で その場に留まる事に飽きたコウモリが逃げ場を探し動き出している

カサカサ と

自分は想像する

コウモリの爪は鋭い それはコンビニの薄い袋を破く事が出来るだろう
コウモリの牙は鋭い それはコンビニの薄い袋を破く事が出来るだろう

いずれコウモリは出てくる

今いる白いコンビニ袋を突き破り この狭い車内の中を縦横無尽に漆黒の羽で飛び回るだろう
そして運転をしている自分に容赦なく その鋭い牙を向けてくるだろう

それは ただの想像に過ぎない

だが 脳裏に浮かんだ想像はカサカサと言う音を耳にするたびに強烈な現実味を持って
今 これから起きる最悪の事態だと警告してくる

それが恐怖となり自分の怯えとなっているのだ

カサカサ カサカサ
  カサカサカサカサ
カサカサカサ

自分は逃げ出したい コウモリが怖い しかし 今 自分とコウモリは運命共同体なのだ
それはエアコン担当者との対話が終わるまでは解消されない

カサカサと音をたてるコウモリが白いコンビニ袋を突き破り暴れ回る
その瞬間が いつ来るのかと怯えながら 車を走らせる自分の目に大型電気店の姿が見えた

白いコンビニ袋は破けずに何とか耐えている

自分は駐車場に車を止めると必要な物を手にして店内に入る
目指すはエアコン売り場

そこに行けば あのエアコン担当者が見つかるだろう 自分が知っているのは 嫁に教えてもらった上の名前だけだ

顔も分からなければ 今更ながら気付いたが性別も分からないのだ

嫁に話を聞いて勝手に男だと思っていたが 実際に会うまで性別は不明だ

取り敢えずエアコン売り場にいた女性店員に自分は出来るだけ ぶっきらぼうに冷たく声をかけた

怒ってキレている感じを出したかったのだ

「エアコン担当のエアモリさんって言う人いる?」と自分は聞いた(エアモリは偽名である 本当の名前は書けないので)

その女性店員は
「エアモリは今 出払っているのですが…」と答えた

いないのかよっ!!

コウモリ エアコン ハイル 完

……

……

否!!

終われない ここまで来て こんな形では終われない

最終ラウンド 自分VS大型電気店

自分は女性店員に事情を話した
当然 怒ってキレてる感を出しつつだ

女性店員は聞き終わると 慌てながら「別の担当者を呼んできます」と言い立ち去った

自分は あのエアコン担当者に会う事が出来ない事実に動揺していた

まさに不意打ち!!奇襲!!こんな事が起きるのか!

絶対に!!100パーセント!!!エアコンにコウモリは入らないと言い張った あのエアコン担当者
それを完膚なきまで論破し その非を認めさせると言う自分の目的が 今 潰えたのだ

自分が手持ち無沙汰で 店内に並ぶエアコンを眺めていたら

女性店員の後を30歳半ばぐらいの男が歩いて来るのが見えた

男は自分の前に来ると名刺を出しながら自己紹介をした
名刺には主任と書いてあった

エアコン売り場には お客との商談用にテーブルと椅子が並んでいる

自分と男は そこに座った
自分は 女性店員に接した時よりも 怒って切れてる感を増し増しにして話を始めた

特に 嫁が電話をした時にエアコン担当者が言った 絶対に や100パーセントのくだりを強調して話した

自分はテーブルに証拠の写真を並べ言う
「お宅の……エアモリさんだっけ?その人が言ったんだよ
エアコンにコウモリは絶対に入らないってさ
この写真 見てよ これエアコンの中だよね?エアコンの中にコウモリが入ったって事だよね?」

主任は指差された写真を見ながら
「エアモリが どのように答えたかは分かりませんが…これはエアコンの中です」と答えた

この瞬間 自分の主張していた コウモリはエアコンの中に入る が確実に立証された

エアコン担当者の言っていた言葉は完全否定されたのだ

そして主任は
「このように写真があるのは凄く助かります すぐに業者に連絡して新しいエアコンと交換します
壁の補修も すぐに手配します」と言った

自分は あっけにとられた

エアコンの交換は出来ても 壁の補修は無理だろうと言うのが嫁とエアー君の見解でもあった

自分も壁の補修については すんなり話が進まないだろうと思っていたのだ
それが こちらから何を言うでもなく簡単に壁の補修が決まった

自分は唐突の展開に
「えっと あ お願いします」と言うだけだった

そして その後の連絡方法などの話をする

自分は嫁のガラケーの電話番号を教え 業者や その他の事は嫁としてくれと言う

その間 自分が感じたのは 慣れているな と言う事だった

主任と言うより この大型電気店がエアコンにコウモリが入った時の対応
それに慣れているように感じたのだ

苦情に対する手際の良さはあって然りだが 言い出す事無く決まった壁の補修を考えると そう思ってしまうのだ

そして ある疑惑が頭に浮かぶ

もしかして よくある事なんじゃないか?それを あのエアコン担当者は知っていながら適当に流したのではないか?と

でも それは本人がいないので確認のしようもない事だ

主任は話が終わると
「このプリントアウトされた写真を頂いてもいいですか?」と聞いてきた

自分は承諾する たぶん業者などに見せ こんな感じだから と説明したりするのに使いたいのだろう

主任はテーブルに並んだ写真をまとめ始める

そして 白いコンビニ袋に気付き
「…これは 何でしょうか?」と聞いてきた

それは その中身は……エアコン担当者との話が ごねた時に自分が……

「ここにエアコンの中にいたコウモリがいるんだよ!!」と啖呵を切り

「見てみろ!!これが 中にいたんだよ!!
それでも100パーセント エアコンにコウモリは入らないと お前は言うのか!!」と言い

白いコンビニ袋を開け 中にいるコウモリをテーブルにさらけ出す……と言う予定で連れて来たコウモリだ

ついでに さらけ出されたコウモリは大型電気店の店内を奇声とフンをまき散らしながら飛び回り 店内はパニックに陥る と言うのを期待して連れて来たのだ

自分は 何だか気まずく そして申し訳なく思いながらも
「コウモリだよ 法律的に処分できないので そちらで保護して」と言う

主任は困惑しながらも白いコンビニ袋を指先でつまみ持つ
「あの…こちらにあるティッシュペーパーは 何でしょうか?」と主任は聞いてきた

自分は いたたまれない気持ちで
コウモリのフン 要らないから あげる」と言った

この行為 会話 はっきり言って異常である
コウモリとコウモリのフンを店に持ってくるなど! これは異常者の極みである 狂気の沙汰である

しかし
これで渡す物は 全て渡した 話も終わったのだ

後は嫁の仕事だ

そして自分は大型電気店を後にした
そこに勝者の姿はなかった

後日談

エアコンは無事に新しいエアコンと交換してもらった
壁も補修が終わり綺麗になった

エアコンにコウモリが入る前と変わらない日常が戻ってきたのだ

ただ 2歳になる息子がエアコンを使うたびに「コウモリいる!コウモリ!コウモリ!」と はしゃぐようになった

そして

自分がテレビのニュース特集でコウモリ被害に悩む人達を取材しているのを見て

初めて 自分の住む地域が異様なほどコウモリが生息している地域だと知ったのだった

雨戸の戸袋付近に潜むコウモリを見つけた

戸袋

さすがコウモリの多い地域である

コウモリ エアコン ハイル 終

般若

紙切れ