オペってきたぜ 背中のデキモノ

2017年11月1日

2016年の出来事だ

自分の背中の中心にデキモノができた

大きさは五百円玉ぐらいで厚みも丁度 五百円玉ぐらいの厚さだ

触るとプヨプヨして中に脂肪が詰まっている感じ
痛くも痒くもないので しばらく放置していた

いつかは皮膚科に行き見て貰わないとダメだろうと思いながらも普段通り生活をしていた

それから数カ月後の二月の初めにデキモノが急にヒリヒリと痛み出した
車を運転した時に背中のデキモノが こすれたせいで炎症を起こし始めたようだ

今まで 何ともなかったくせに自分が真面目に仕事でもするかと気合を入れた途端に この有り様

さすがに皮膚科に行かないといけないだろうと自分も心を決めたのだが
今週は仕事が忙しく休みが取れない
来週の火曜日なら休みが貰えると言うので そこまで頑張るしかない

これは賭けだった

背中のデキモノは いつ破裂してもおかしくない
週末が近づくにつれデキモノは赤みを増しヒリヒリとした痛みが強くなる

何とか火曜日まで破けないでくれと願うように日々を過ごす

だが 願いもむなしく
月曜日の朝 恐れていたことが起きてしまう

デキモノが破裂した

その日の朝 自分は寝方が悪かったのか 肩と背中の筋肉がコリ固まっていた

1歳7か月の息子にマッサージを頼んだら 力の限りに背中のデキモノを叩いてくれたのだ
そしてデキモノは破けた

今日1日 無事に乗り切れば 明日の火曜日に皮膚科にて処置をして貰えたのだが
息子を責めるわけにはいかない 息子に罪はない

罪があるとすれば それは自らのダラケタ精神こそが罪であり罰なのだろう

自分は着ていた服を脱ぎ 背中の破けたデキモノから出て来た血の混じった液体をティシュでぬぐう
ガーゼが無いので嫁のコットンを貰い
それを破けたデキモノに張る そしてガムテープで固定した

今日は この応急処置で過ごすしかない

明日になれば皮膚科に行けるのだから これで我慢だ

破けてしまえばデキモノは痛みも無くなり皮膚科に行かなくてもいいか?とさえ思えてしまう
ほっといても治るような気もするが

皮膚科に行くと言う建前で仕事を休むのだから皮膚科には行くことにした

火曜日 皮膚科にて

デキモノは破けてしまったし痛みもない
診察しても薬を塗ってもらうだけで終わりだろうと軽い気持ちで皮膚科の待合室にいた

名前を呼ばれ先生のところに行く

先生は患部を一目見て
「ああ これはふんりゅうだね 皮膚科に来る患者で一番 多い症状だ」 と言った

「良性の腫瘍だけど 手術して中の袋を取らないと何度でもデキモノができてしまう 費用は一万円ぐらいかかるかな」 と続けた

思っていたより面倒なことになってきた

背中のど真ん中に常にデキモノがあると
いずれ成長した息子に「パパ 背中にスイッチがあるよ パパ ロボットなの?」と泣かれてしまうだろう

自分は人間だ 間違いなく人間だ!と息子に胸を張って言うためにも手術をして治すしかない

手術は十日後の金曜日に決まった 手術同意書の紙を渡され保証人の同意も得るようにと言われた

ここで粉瘤(フンリュウ)について軽く説明しよう

粉瘤は皮膚の良性腫瘍の1つで 脂肪のかたまりだと思われがちだが
実際には皮膚の下に袋状の構造物ができ本来は皮膚から剥がれ落ちる垢などの老廃物が袋の中にたまる症状である

この袋を取らない限り何度でも膨れてしまう

なぜ皮膚の下に袋状の構造物ができるのかは不明

できる原因が分からないのだから予防法も分かっていない

袋を取れば治ると言う治療法が分かっているだけだ

十日後の金曜日に手術をするまで 皮膚科で貰った薬をガーゼに厚く塗り それを破れたデキモノにテープで固定して過ごすことになった

痛みはないのだが テープがかぶれて痒い

テープを張る位置を毎日 微妙にずらしながらジリジリと手術の日を待つ

背中を気にしながら仕事をする日々
自分はゴルゴ13かっ!殺し屋かっと!自分自身の存在に疑問を感じ始めたころ

約束の金曜日がきた

オペの金曜日

自分は朝から そわそわしていた

当然この日は仕事を休みにしている

手術の方法まで詳しく聞いてはいなかったが背中のデキモノを切って何かをほじくり出すのだろう
ならば その後 縫うはずだ

縫った次の日に仕事をしたら糸が切れてしまうかもしれない 安静にした方が良いに決まっている
医者が何か言ったわけじゃないが そうしたほうが絶対に良いに決まっている

だから 土曜日も休みにした

日曜日は元々 休みなので三連休だ

自慢じゃないが ちょっとしたことで仕事を休むのが自分は何よりも好きなのだ

息子よ これが お前の愛するダディである 心せよ!と父親の威厳を息子に見せつつ

自分は皮膚科に行く準備をする

ハッキリ言って 三連休の初日に皮膚科に行ってる場合ではない

貴重な連休なのだから もっと有意義に過ごすべきな気がするが
それを嫁に言うとガッカリした顔をするのが目に見えているので黙っていることにした

それに自分の中の本心は 実は皮膚科に行くことを望んでいる
朝から そわそわしているのも そのせいだ

いや 昨日の夜からだったかも知れない
まるで遠足を待つ子供 初デート前の女の子 ハローワークに初めて世話になるオジサン

明日 経験するだろうワクワクとドキドキが そして小さな不安が期待が 明日が来る前の夜に すでに心躍らせる そんな状況だ

考えてみてくれ

皮膚科で背中を切ると言うことは上着を脱ぐはずだ
上着を着てては邪魔になる

かなりの確率で言われるであろう 「上着を脱いでください」 と
自分は素直に従う

上着を脱ぎ上半身 裸になる 裸になると言う事は

乳首が!自分の二つの乳首が!
若く可愛い女子看護師に見られると言う事だろ!

そんな状況 いつ以来だろうか?

服を脱ぎ女子に乳首を見られるなんて しかも二つ!

もうワクワクしてしまう

しかも その子は言うはずだ 「ベッドに横になって下さい」って!

ああ なんてドキドキするシチュエーション!

それだけで良いんです それだけでも満足なんです

ダディは甘い記憶が甦るような そんな期待だけで生きて行ける男になってしまったのだよ 息子よ!

自分は息子へ 無事に帰ると言い残し家を出た

いよいよ手術を受ける時が来たのだ

続く