鏡に映るは 後ろに立つ者

ふと思い出す

あれは…
汗が じっとりと肌に溢れ出す暑い真夏の夜のことだった

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明るく賑やかな繁華街から 少し離れた薄暗い街灯が照らす人の少ない通り
ネオン看板に群がり弾け飛ぶ蛾の音が絶え間なく夜の街に響く

足元には焼け焦げて死んだ蛾の残骸が黒い点となり無数に転がっていた
まるで飛び散った血のあとのようで薄気味悪い

自分は それを踏まないように大きく跨ぎ地下へと続く階段を下りる

階段の先には重い防音の扉
多少の緊張と期待を感じながら重い扉を開き 自分は中へと入る

扉

薄暗い照明の下 タバコの煙がユラリと動く

ソファーに腰かけ酒を飲んでる男達が横目で睨むが すぐに興味をなくし小声で横に座る相手との会話に戻る

男達の話相手は綺麗かつ可愛い お姉さま方だ
ここは紳士の社交場 お水の花道 クラブだ

自分は ここに会社の仲間と共に遊びにきたのだ

華やかなドレスを着た女性達 スリットから覗く白い太もも セクシーな香水 普段の生活では目にする事もない女性らしい女性の姿

自分は久々の女の色香に酒よりも深く酔い 浮かれに浮かれ喋りに喋り その時を楽しんでいた

トイレに行くのに席を立つことさえ時間が惜しいと感じていたが さずがに我慢にも限界がある
少しでも長く話をしていたい気持ちを抑え自分はトイレに向かった

トイレの中は店内の騒がしさが白昼夢だったのかと勘違いしてしまうぐらい静かで寒かった

ドアを入って正面に洗面台があり その上に大きな鏡がある

左側に男性小用があり右側に個室の洋式がある

小規模な店なので トイレは狭い

自分は男性小用の前に立ち深いため息をしながら用をたした 背筋が寒さで軽く震える

用を済まし洗面台で手を洗う

鏡には酒にベロベロお姉さまにデレデレの真っ赤になった自分の間抜け顔が見えた
『シャキッとするか…』

自分は蛇口から水を豪快に出しワイルドかつフレンドリーに顔を洗う

その最中 勢いよく流れる水の音が ひときわ大きく聞こえたような気がした

自分の後ろで空気が動いている

気配を感じる

自分はハンカチで顔を拭き……鏡を見た

いる!

鏡に映る自分の後ろに女性が立っている

驚愕した

自分は腰を抜かしつつも無理やり後ろを振り向こうとした
洗面台に上半身を引っ掛け がに股になった状態で何とか後ろを振り向く

やはり…いる!女が!

静寂と寒さが支配するトイレの中で その存在は あまりにも異質に感じられた

女性は こちらを見つめ微笑みながら 言う
「幽霊では ないわよ」
自分は答える
『嘘だろ?幽霊じゃない? この世のモノとは思えない可愛らしい笑顔をするのにかい?』

この時になり自分は この店のトイレが男女兼用だった事を思い出した

彼女は個室から出て来たのだろう

女性は照れながらクスッと笑い「ありがとう」と言いながら優しく手を差し出した

それは まるで心優しき王女が戦い疲れた騎士に感謝と愛情を差し出すかのような優雅な仕草だった

自分は その手にキスをしようと 彼女の手を掴もうとした時 彼女は言った
「あなたは この世に出てきては いけないモノが出てきそうよ」

自分は彼女の手が指し示すほうを見る

おぅ! 自分 チャック全開

自分はチャック全開のまま がに股で彼女に歯の浮くセリフを言っていたのだ

慌てて後ろを向き恥ずかしさの中
自分はチャックを必死で閉めようとするが動揺と焦りのせいで上手く閉められない

ふと顔をあげた自分は 鏡の中で口に手をあて笑っている彼女を見て気づいた

後ろを向いても鏡で丸見えだった

チャックは閉まらない

自分は諦めた

そして彼女に振り向き
『閉めて』

頬が痛くなった

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終わり

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