男気を見る 5 ラスト

2018年1月29日

この 『お盆休み前の飲み会にて 男気を見る』 の話で

小さなエピソードを拾いじっくりと書いていたら10や20では終わらないと自分は気づいた

タイトルに 男気を見る を入れてなければ それでも良かったのかも知れないが

入れてしまった手前 話をいつまでも ひっぱるのは まさに男気に欠ける行為だろう

小さなエピソードは時系列を無視しザックリと書く程度にして話を進めていくことにした

エビの天ぷら

遅れた2人の人物

皆がサラダを食べ終わる頃には遅れていた参加者2人も合流し飲み会は賑わいを見せていく

遅れて来た1人は会社にパソコンなどの設備を入れる業者の男で
社長とも古くからの付き合いがあり たびたび 会社の飲み会にも参加をしている

この男

この後の二次会で 皆でカラオケボックスに行ったのだが
カラオケを皆でしている最中に部屋から突如いなくなった

気分でも悪くなったのかなと気になった自分は部屋を出て探しに行くと

受付の入り口付近にある椅子に背中を丸め うつむき自分の手元を見ながら寂し気に座っていた

仕事に疲れたのか 人生に絶望したのか そう思わせ 実はポケモンGOで遊んでいる姿かも知れないと思った自分は 更に近づき様子を見る

男は どうやら本当に気分が悪くなっただけのようだ

ポケモンGOではなくトイレにGOするのかなと思いつつ

自分が その場を後にしようと踵を返した瞬間

男が自分の姿に気付き
「大丈夫だから…… 部屋に戻ってて……大丈夫だから」と弱弱しく声をかけてきた

声をかけられた手前 心配する様子を見せずに黙って部屋に戻っては薄情者だと思われる

仕方ないので自分は男の隣に腰掛け
「本当に大丈夫ですか?」と聞く

男は それをきっかけに自身の会社や仕事の愚痴を喋り出し
そして 今 参加している この飲み会が どれだけ好きなのかを熱く語りだした

自分の適当な相づちに元気づけられたのか ただ喋る事で口から酒気が抜け酔いが醒めたのか
男は立ち上がり 「部屋に戻ろう」と言ってきた

部屋に戻ると 男は今までにないハイテンションでカラオケをして 更にカラオケ時間の延長までした

出来た男なので カラオケ延長分は この男の払いだ

そして このカラオケ延長が自分とエアー君の長い夜の始まりになるのだが それは まだ後の話だ
今は もう1人の遅れて来た参加者の事を説明しよう

その人は会社の社員でスキンヘッドのオッチャンだ

自ら頭を剃ってツルツルにしているから 正確にはハゲではないのだが ハゲである事をネタにすること されることが多い

どちらかと言えば まろやかな性格で男性器に似た風貌を持つオッチャンだ

……男性器に似た風貌……この表現では あまりにも露骨であり卑猥すぎるので

オブラートに包むように 言葉をかぶせるようにしたのをオッチャンのあだ名にすべきだろう……

……

……コンちゃん……!

このオッチャンのあだ名はコンちゃんにしよう

まさにフィット!まさにピッタシ!

コンちゃんのコンが何処から出て来たのかは置いといて ついでに このコンちゃんが今回の飲み会で特筆すべき事が何もなかったので コンちゃんの事も置いとこう

これで遅れていた参加者の話は終わりだ

本題に戻る

そして宴は佳境に

次々と運ばれテーブルに置かれる大皿料理

自分はサラダを取り分けた時の経験から 大皿料理を皆に取り分けるのをしない事にした

そもそも 自分も酒を飲み 食べ物をつまんでいる

大皿料理を毎回 取り分ける暇などない なんせ飲み放題だ 明日の分まで飲まなければいけない

実際のところ 大皿料理は社長 クマさん先輩 エアー君 自分 それぞれが手の届く中心に置かれている
各自が自分自身で好きな量を取れるのだ

ただ

自分の右横に座る愛姫だけは手が届かない

愛姫が頑張れば届かない事もないのだが それをするには愛姫が自分に近づいて…

その胸が 大きめな その胸が 隣に座る自分の右腕に当たるぐらい…

いや その巨乳が右腕に押し潰れるぐらい自分に身体を預ければ大皿料理に手が届くはずなのだが……

当の本人は そこまで頑張る気はないようだ

なので愛姫の分だけは自分が取り分けて渡す

サラダから始まり 唐揚げ 刺身 煮物 ピザと順調にコース料理は進む

酒の進んだ面々の話は いつしか車の話題になっていた

飲み会参加者の中に車 バイク好きが多々いるので 飲み会の席では 一度は上がる話題である

親分が「あの車は300馬力で」と言うと
それを受けコンちゃんが「あれは4亀頭で」なんたらかんたらと返す

カメ頭が何を言ってるんだと ツッコミたくなるが
自分は車 バイクに詳しくもなければ興味も薄いので 変にツッコむと 逆にカメ頭にツッコまれる危険がある

黙っているに越したことはない

ただ 自分は周りの会話を黙って聞きながら

頭の中でシンデレラのカボチャの馬車を引く300頭の馬を思い浮かべていた

1馬力が馬1頭分の力というわけではないのだろうが……300頭の馬は壮観である

話題は車の話からバイクの話にへと流れて言った

この話にも自分は入っていけない

ふと愛姫を見ると愛姫も車 バイクに興味が薄いらしく手持ち無沙汰な感じだった

酒も回り声の大きくなった面々の話を黙って聞いていた自分の耳に

「あのバイクは加速が凄すぎてフロント浮いてウィリーするんだ」との会話が聞こえた

ウィリーと言う単語が自分の過去に起きた出来事を思い出させた

自分は愛姫に その時の話をする事にした

「自分の乗ってたバイクだってウィリーしたぜ
昔 原付に乗っている時期があってさ 真冬で寒いからって凄い厚手の手袋をしてたんだ

一時停止で止まって走り出そうとアクセル捻ったら 厚手の手袋のせいで感覚が分からなくて
急発進の全開ウィリーしてさ 人の家に突っ込むところだった(笑)」

愛姫は微笑しながら
「大きな声で話して皆の話題に入って行けば?」と言う

自分は
「所詮 原付の話だから…」と答えた

不発である

今回の飲み会で自分は冴えた話が出てこない

お盆休み前の飲み会にて 男気を見る

そして大皿に盛られた天ぷら料理が運ばれてきた

その天ぷら料理の中にエビの天ぷらがあった

5人分なので5匹のエビ 1人に付き1匹だ 2匹食べたら恨まれるだろう

自分は愛姫に
「エビ取ろうか?」と聞くと

愛姫は
「ありがとう でも 大丈夫 取らなくていいわ」と答えた

自分は その言葉に衝撃を受ける

女子と言えばエビが好き これは揺るぎない事柄の1つである

なのに愛姫は天ぷらのエビを取らなくていいと言う

この世にエビが嫌いな女子がいるのか?
女子に嫌われたエビに存在意義があるのか?

女子と言えばエビが好き 自分の中で確定された この方式が 実は不確定性原理を伴うと言うのか?

自分が今まで観測して得た事実が 実は観測する事で作られた虚像であり
自分が観測していない状況では別の事実が起きていて
しかし それは自分が観測をしていないから知ることが出来ない事実であるがゆえに
自分は自分の知る事実のみを頼りに答えを出していたと言う事か?

コギト エルゴ スム 我思うゆえに我あり

我 愛姫に問う
「愛姫 エビ嫌いなの?」

愛姫は
「嫌いじゃないわよ 今は まだ食べる物があるから…… あとで食べようかと」

やはり女子はエビが好きなのだ ただ今は まだエビを食べるタイミングではなかったと言う事だ

愛姫の言葉に自分が納得してると

自分が愛姫に天ぷらを取り分けないのを見たエアー君が

「赤原 愛姫に天ぷら取ってあげないのかよ!」と言いながら
大皿の天ぷらを自らの箸で取り 愛姫の小皿に次々と載せていった

そこには自分が先ほど 愛姫に取ってあげようとし断られたエビの天ぷらもあった

自分は愛姫の横顔を見る

その横顔に困惑と戸惑いが一瞬 浮かぶ
だが それは すぐに消え 愛姫は照れて嬉しそうな表情になる

そして愛姫はエアー君に「ありがとう」と言った

強引 だが それがいい

男気 これが そうだ

自分のように いちいち相手に尋ねない 聞かない

はたで見ていた自分でさえ エアー君の行動にドキッとした

確かに強引である だが その強引さは相手を思う気持ちからの行動

しかも その強引さが 男らしさ 男の優しさを際立たせる

これは間違いなく男気

金を払って奢る事だけが男気ではないだろう

愛姫にエビの天ぷらを取ってあげる 自分もエアー君も同じ事を考えた

だが
男気の足りない自分は相手の顔色を伺うだけで 結局 エビの天ぷらを取ってあげる事はしなかった

自分はエアー君の男気を見る事で知ったのだ

男気とは回りくどくない 直線である
直線だから真っ直ぐに 相手の心に伝わると言う事を

自分に必要なのは男気なのかも知れないと思いながら
「食後のデザートにクレープを一緒に食べない?」と幹事である愛姫に自分は聞いた

答えはノーであった

この世に食後のデザートを食べない女子がいるとは驚きである

お盆休み前の飲み会にては こうして幕を閉じる

ちなみに
愛姫はエビの天ぷらを美味しそうに食べた やはり女子はエビが好きなのだ

次回 番外編

自分とエアー君の長い夜

般若

紙切れ