男気を見る 3 宴会で座る場所は どこ?

ピンクの桜舞い散る駅に名残を惜しむエアー君を引き連れ

自分は飲み会開催場所のチェーン店の居酒屋へと入る

出だしから汽動車と電車で小さなトラブルを起こし 灰色の世界に暗雲立ち込める展開ではあったが
これから飲む生中が全てを綺麗に流してくれるはずだ

ただ記憶が真っ白に無くなるほど泥酔しないようにと思いながら

自分とエアー君は案内された部屋へと向かった

お盆前 恒例 飲み会

案内された部屋は畳の和室で 長い長方形の机が真っ直ぐに置かれていた

その長方形の机を挟んで座れば16人程が座れるだろう

部屋自体も長方形で広くはない

移動するときは座っている人の背中の間を無理してすり抜けることになりそうだ

宴会場

自分が部屋の中を覗くと すでに5人が座布団に座り話をしていた

入ってすぐの右側手前に座っているのは 会社との仕事がらみで付き合いのある人だ

社長や自分とエアー君の親分とも古くから付き合いがあり 性格は明るく賑やかである

頭が坊主で背を丸め がに股気味に歩く感じから山から出て来た熊のようだ

背丈は標準男性と比べて少し低い程度だろうが 背を丸めているので余計に低く見える
あだ名はコグマさんに決定だ

コグマさんが その席に座ったのは会社の社員ではなく外部の者であることからの気遣いだろう

ただ 身体がガッチリした大きい人が そこに座ると その背を蹴りながら奥に行くことになる

そして我らが親分はコグマさんの対面に座っていた

親分は柔道をしていたのでコグマさんよりも身体がガッチリしている

その2人が入口手前の両端の席に陣取っていた

それはまるで神社の入り口で仏敵の侵入を阻む仁王像の如しである

怒りを表に出す阿形像と怒りを内に秘める吽形像 どっちが どっちなのかは置いといて

現実問題 自分とエアー君は行き場を失い戸惑う

入った早々 この貫禄あるお出迎え 出鼻をくじかれた感じだ

自分とエアー君が どこに座るか?と立ったまま迷っていると右端の1番奥の席から
会長の愛娘こと愛姫が近寄って来た

愛姫は どこに座るべきなのかと迷う自分に 私の隣に座るといいよ と言う事もなく
「会費 先に集めてるから」と お金の徴収を始めた

愛姫は 今回も幹事を任されているようだ

先に会費を徴収するのは 飲み会の終わりに会費の徴収をすると酔っ払い相手では収集がつかなくなり計算が合わなくなる事があったせいだろう

自分は酔う前に会費の事を言われたので仕方なく 今回は真面目に会費を払う事にした

グリーン車の車掌さんに愛姫のような気遣いがあれば自分も追加料金を払い忘れずに済んだだろうにと思いながら愛姫に会費を渡す

同じく会費を払ったエアー君は左側の奥の席に座る事に決めたようだ

親分に挨拶をしながら その親分の背中と壁の間を通り奥へと向かう

エアー君は「赤原は 反対側に座りなよ」と言ってきた

自分はエアー君の言葉に従いエアー君とは反対の右の奥の席に座ることにした

元々 座る場所の選択肢は あまりない

入り口から左側 長方形の机の真ん中の席には社長が座っていて
社長の対面にはクマさん先輩が座っている

ちなみに クマさん先輩は 虚空に叫べ に登場している

広く空いている場所は奥の席だけなのだ

空いている席が まだあるのに わざわざ誰かの真横に座るのも違和感がある

乗客の少ない電車で よく見るアレと一緒だ

座っている人との間に1人分開けて座る その隣の人も1人分開ける

等間隔に席が空いている状態

席が空いているならスペースを開けて座る
お互いのパーソナルエリアに入り込まないように配慮する

席が空いている場合 親しい間柄ではない限り真横には座らないものだ

自分はコグマさんの背中を足でこすり 途中でクマさん先輩の背中にぶち当たりながら奥の席へと行く

奥へと向かうと 座布団の横に愛姫のカバンが置かれていた

右の奥の席は愛姫の座る場所だったのだ

自分はしょうがなく しょうがなく 愛姫の真横の座布団に座ることにした

これは運命が決めたことであって自分の下心とは無縁である

そして飲み会が始まる

飲み会参加予定の2人が まだ来ていなかったが 早く酒が飲みたい面々が待てるはずもなく
予定時刻よりも少し早めの開始となった

喉を痛めてガラガラ声の社長が「乾杯!!」と言いながら生中のジョッキを掲げる

かすれて景気の悪い掛け声であるが 皆 それに合わせ乾杯と言いながら生中を飲み始めた

宴会料理コースに飲み放題がついたプランである

飲めるだけ飲まなきゃ損だとばかりに飲む面々

3分もしない内にジョッキが空になり テーブルにコースの料理を忙しそうに運ぶ店員さんに おかわりの酒を注文していく

料理を運ぶと言っても 店員さんが壁と座っている客の背中の間を料理を持って歩けるわけではないので
バケツリレーの要領で手前から中盤へ そして奥へと手渡しだ

最初の料理はサラダである

大皿に盛られたサラダが2皿だ 4,5人で取り分けて食べるようだ
取り分け用の小皿もある

自分は上下関係とか先輩や後輩などの縦社会での基本的行動を過去に学んで来なかった

それ以前に横の関係さえ気薄に生きて来た

そんな自分だから 上司や先輩に率先的に料理を取り分ける事はしない

しかし 今の自分は違う!

エアー君との飲み会や遊びの中で エアー君の考え方 その思い その人間性が 自分に影響を与え微かな変化を生み出している

いいでしょう!

自分が 取り分けましょう!そのサラダ!!

続く

般若

紙切れ