虚空に叫べ 受破
今でも追いかけている あの時の瞬間を
今だからこそ求める あの想いを
今はもう何もない あの情熱も
今したいことは あの頃のように生きること
楽しく盛り上がるなか 重大事件が起きた
彼女が一度 齧った物を自分は深く考えずに あ~んにつられ口に入れてしまった
それは自分の苦手な食べ物 ナスの漬物だった
飲み込むにはデカく 噛めばフニャとした食感!中から変な汁まで染み出してくる
これから彼女の内面に迫り更なる親密度を上げようとしていた所なのに
口の中にナスの漬物があっては喋れない
メイクラブそしてベッドメイキングからの~メイクチャイルドが自分の願望であり目的なのに
このままでは何も達成できない
自分は焦り始めていた
時間だけは刻々と過ぎて行く
何か 何かないのか
なぜ なぜこんなことに
自分が思案しているとボーイが近寄って来た
髪は白く 顔にも多数のシワがある ボーイと呼ぶには年を取り過ぎだ
やはり黒服と呼ぼう
黒服は自分達の席に来ると
「閉店の お時間ですので お会計を…」
なにぃ!駄目だ!黒服!自分は まだ彼女と親密になっていない!
「お呼びになった代行の方も お待ちになっております」
駄目だ!代行!自分 まだナスの漬物が口に入っている
自分達は あがいた
ギリギリまで店にいたい 女の子の傍にいたい
クマさん先輩は ゆっくりと時間をかけてコップの最後の酒を飲んでいる
ドラマーもテーブルのツマミをチョビチョビ食べて時間を稼いでいる
クマさん先輩達ゴメン 力になれなくて
自分 口にナスの漬物 入っているんです
どうしようもないんです
ナスの漬物が…
戦力にならない自分をよそにクマさん先輩達は決死の攻防戦をしている
だが 敵将ママの「延長料金5割増しよ」の勧告に無条件降伏を余儀なくされた
静まり返った真夜中の街
寒い北風が吹く外に追い出された自分は夜空を見上げる
ビルの隙間から見える夜空に 無数に瞬く星など見えやしない
何もない黒が広がっているだけだ
ロシアの凍てついた大地に 地球上で最後の一頭になった赤い狼がいる
赤い狼は 夜になると夜空に向かい遠吠えをすると言う
それは仲間を求める悲痛な声か
この世に自分しかいない嘆きの声か
人は言う
遠吠えをしても何もかえってこないのに ただ無駄に声をからすだけなのに
バカな狼だと…
自分はクラブで何かを得たのか すぐに消える淡い記憶か
それでも自分はクラブで話をする
たとえ それが虚空に溶けて消えるだけだとしても
バカだと言われようとも
虚空へ 叫び続ける
赤い狼のように
気付けば自分のナスの漬物は口の中で溶けて消えていた
少し 愛着が出てきていたのに
自分は真っ暗な夜空に言った
さようなら
ナスの漬物
夜空に流れ星が ひとつ
も
流れはしなかった
虚空に叫べ 完
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