虚空に叫べ 急
思い通りに行かない状況に甘んじ諦め後悔するばかり
現状を打開する勇気も努力も使い果たし
ただただ流れに身を任せ
このまま滝つぼへ落ちていく恐怖に震えている
脳裏を駆け巡る走馬灯
あの日 見た笑顔 在りし日の瞬間 想い ぬくもり
左が壁 巨乳 悲しいバッグとオジサンの微笑み 四面女花 巨乳
…あの巨乳だけが自分の全てだったのか…
対角線上の あの子
自分は対角にいる女の子と目があった
その瞬間 自分のハートに静電気ほどの電流が走った
あの子と話がしたい あの子は自分に惚れている!
だって 目が合ったんだから こっちを気にして見ているんだから
自分は あの子の気持ちを受け止めたいと感じた だが焦りは禁物だ まずは会話からだ
しかし この状況では それが難しい
テーブルの端と端 遠い あまりにも遠すぎる
店の雑音 自分の声量 あの子の聴力 それらを考慮し計算してみる その導き出された答えは…
自分が話かける
すると あの子は おもむろに片手を耳に当て
「あ~?あんだって?」と耳の悪い お婆ちゃんみたいに聞き返してくる
綺麗なドレスを着た女性に そんな真似をさせられない
万事休す どうしたものか?
自分は目を閉じツマミのプリッツをウサギさんのように前歯でカリカリ食べながら考える
その間にも どうでもよいテレビドラマについての会話が耳に入ってくる
ドラマーと場所を替わって貰うか? イヤ 初対面の人には頼みづらい
更に自分は目を閉じながら考える
今度はプリッツを三本まとめて口に運びながら周りの雑音を追い払うようにカリカリと小気味よく音を奏でながら考える
では クマさん先輩と席を替わって貰うか?
巨乳ちゃんに夢中で無理か?…巨乳…
目を閉じ考えていた自分の脳に小さな豆電球が光った 閃きの瞬間だ!
この位置からは どう頑張っても あの子と会話をするのは無理だ
かと言って何もしないのでは つまらない
どうせ あの子と会話が出来ないなら せめてもの夜の土産に
巨乳の谷間を目に焼き付けてやろうじゃないか!!
自分は電撃に打たれ目覚めたフランケンシュタインのように閉じていた目を大きく見開き
隣に座る巨乳ちゃんの巨乳の谷間を
巨乳の胸がない!!
否 胸はある が 巨乳がない 有り得ない 落ちたか?しぼんだか?
それは物理的に おかしいはず…
巨乳は どこに行った?
自分の巨乳は?
「胸ばっかし見ないでよ 小さいんだから」
そう言われ自分は顔をあげた
あれ?巨乳ちゃんではない テーブルの端にいた あの子だ
自分が目を閉じて考え事をしていた最中に女の子達が席替えをしたようだ
そうか そんなに自分と話がしたかったのかい?お嬢ちゃん
いいだろう 相手になろう
下がっていた自分の気分も ここに来て やっと上がり始めた
今まで黙り込んでいたぶん人寂しくなっていたところだ
左側の壁にもたれスポットライトに晒され続け孤独を噛みしめた時よ さらばだ
自分は隣に座った彼女との会話を楽しむ
そして会話は弾み盛り上がる
それも当然だ 彼女は自分に惚れているんだから
彼女の大きな瞳が自分を見つめる 口元に手を当て可愛らしく笑う
コップの酒が無くなるとついでくれる
彼女の柔らかい太ももが自分の太ももに当たる
もう これ ラブフラグ立ちまくりでしょ!
元々 クラブへの入店時間が遅かったため残り時間は少ない
閉店時間までに彼女との親密度を深めておきたい
自分は会話の流れを大人的内容へとシフトしようとしていた時
彼女が爪楊枝に刺さっていた何かを少し齧った
瞬間 彼女は小首をかしげ
その残った齧りかけの何かを「はい あ~ん」と言いながら自分の口へと差し出した
自分は条件反射的に あ~んと言いながら爪楊枝に刺さった何かを 全部 口に入れた
彼女の口が一度 齧った何かを自分が口に入れてから事の重大さを思い知る
これはクマさん先輩が注文したナスの漬物だ!
これがチーズやチョコレートの盛り合わせなら…事態は違った
自分は口に入っているナスの漬物を軽く噛む
あ~変な汁が 歯ごたえが しかもデカくて飲み込めない
ナス独特の苦み 漬け込んだ事で漬物独自のすっぱさが
これでもかと内部に充填され それがナスの風味とからまり内部で変な汁を形成している
柔らかくヌメる歯ごたえ 軽く噛むだけで 内部から にじみ出るヌルい汁
自分には噛み切れない でも噛まないと飲み込むことは出来ない でも噛めない ヌルい変な汁が出てくるから
おしぼりで隠しながら そっと出してしまうか?
しかし タイミングが悪い
自分の おしぼりは先ほどテルテル坊主を作って遊んだために手元にない
この状態では彼女と話が出来ない
今からが勝負パンツを履いてきた事へと繋がるための大事な時間なのに!
早く何とかしなければ 閉店時間は迫っている
マズい!色んな意味で 非常に不味い
続く
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