男気を見る 2 グリーンとピンクと流行中
飲み会の場所に行くために 自分とエアー君は移動手段に電車を選ぶ
初っ端から小さな混乱を味わいつつも電車は無事に乗り換えの駅までついた
ついでに
自分はエアー君からポケモンGOについての知識を教わることも出来たのだった
電車には座って乗りたいよね
そして 今 自分とエアー君は電車を乗り換えるためにホームを移動する
自分達が乗り換える電車は すでにホームについていて発車時刻を待っている状態だった
近くの車両を見ると席は空いていない
電車に慣れていない自分達としては 是非とも座って電車に乗りたい
発車時刻まで数分の余裕があるようなので先頭車両の方へと歩く事にした
その間に空いている席があるかも知れないと期待したのだ
しかし
現実は 自分自身にはベトベトベタベタなほど甘すぎる自分ほど甘くなく 空いている席が見つからない
しかも発車メロディーが鳴り始めた
ゆっくりしていたらドアが閉まってしまう
自分とエアー君は慌てて近くの車両に飛び乗った
そして 自分は呟く
「エアー君… この車両 有料のグリーン車だよ…」と
移動する時間がなく慌てて近くのドアに飛び込んだためにグリーン車に乗ってしまったのだ
この車両に乗るには普通列車グリーン券が別料金で必要になる
その料金 車内で買うと 平日50キロまで1030円 51キロ以上で1240円掛かる
自分達は この駅から3駅目で降りる
時間にして12、3分で目的の駅に着くのだ
お金を追加してまで座っていたいわけではない
先に払った電車代金に別料金1030円を足し 自分とエアー君の料金を合わせると
家から2人でタクシーに乗って行った料金と大差はないだろう
だが 乗ってしまったのだから 別料金を払うしかない
通路やデッキに立っていてもグリーン車の料金は払わないといけないのだ
ならば 立っているより座っていた方が良い
自分とエアー君は通路を歩き席の方へと向かうと
新幹線と同じ作りの座席が並んでいた ほとんどが空いている
2、3人しか利用してないみたいだ
こんな有料車両を連結するぐらいなら 最初から普通車両を連結しとけば
もっと多くの人が普通に座れただろうにと
金持ち優遇の社会の有り様を目にしながら自分とエアー君は空いている座席に適当に座る
自分は座席に座ると同時に思案する
――どうやって 別料金を払うんだ?――
上を見上げると何やらカードを差し込む機械のような物があるのだが
それはSuica専用みたいだ
当然ながら 自分もエアー君もSuicaは持っていない
この方法では別料金は払えない
――グリーン車の中に券売機があるのか?それで買うのか?――
自分が初めて乗ったグリーン車の料金支払い方法に頭を悩ましていると横に座っているエアー君が
「赤原 見ろよ!超早く走ってるぜ!」
と言いながらポケモンGOのゲーム画面を見せてきた
自分がチラ見すると確かにゲームの中の主人公が早く走っている
電車が走り出したので ゲームの主人公も電車の速度に合わせ走り出したようだ
エアー君ポケモンGO談義 3番が ここで実証された
はっきり言って 主人公が速く走るのは どうでもいいって事が!
自分はゲーム内を走る主人公を見ながら
車掌さんがグリーン車の中を走りながら 料金を徴収するのだろうと結論した
自分には これ以外の料金の払い方が思いつかない
銀河鉄道999では そんな感じの手法だったような気がする
今 出来る事は車掌さんが来るのを待つ事だけだ
自分はエアー君から 車掌さんが来るまでの間にポケモンGOの話を もう少し聞いておく事にした
テレビを騒がすブームは すぐに時代の波にのまれて廃れる物だが
流行りに乗るのは 結局 その時にしか出来ない それは ある意味 貴重な体験とも言えるって事だ
エアー君は エアー君ポケモンGO談義 2番 通称『桜』についてのエピソードを話してくれた
ここで 通称『桜』と言われるアイテムの事を少し補足しておく
通称『桜』の正式名称は 自分は知らないしエアー君も覚えていないので分からないが
有料アイテムなので使うには課金が必要なのだ
正確な値段は 当然ながら自分もエアー君も知らない エアー君いわく「高い」
『桜』と呼ばれる理由は
そのアイテムを使うと半径内に桜吹雪のようなピンク色の花びらが舞うので『桜』と呼ばれる
この『桜』は使った人だけではなく その半径内にいる人 全員が恩恵を受ける事が出来る
『桜』が発生している場所があれば 実際に移動して そこに行き半径内に入ると得をするのだ
これが『桜』である
この特色を知らないと話にならない
では エアー君『桜』エピソード 1を始めよう
エアー君が近くのスーパーに買い物に行った時のことだ
そのスーパーは団地が立ち並ぶ所にあり
店の入り口前にはベンチや子供用遊具が設置された空間がある
過疎っている茨城とディスられる事から想像がつくように 人で ごった返すことなどない場所である
そこは
近所の小さな子供が奇声をあげながら遊具で遊び それを見守るママさんがチラホラいたり
買い物をするのに歩き疲れたのか 家までの帰り道を思い出そうとしているのか
おじいちゃんや おばあちゃんがベンチに座っていたりするぐらいで賑やかとはかけ離れた場所だ
エアー君が買い物した日は ベンチにオジサンが1人で座っているだけだった
そのオジサンは背中を丸め うつむき自分の手元を見ながら寂し気にベンチに座っている
仕事に疲れたのか 人生に絶望したのかは分からないが そう思わせるほどの哀愁を感じる姿だ
エアー君は買い物を済ませた後 何気なく この辺にもポケモンがいるのかとポケモンGOを起動した
そして ポケモンGOの画面を見た時 エアー君は驚愕した!!
なんとポケモンGOの中の主人公がピンクの桜吹雪の中にいるのだ
それは すなわち エアー君自身が『桜』を使った人の半径内に 今 入っていると言う事だ
エアー君は周りを見渡す
いや 周りを見渡すまでもない
ゲーム内の地形は現実の地形とリンクしている 当然 距離もリンクしている
『桜』のピンクの中心 それは どう見ても あのオジサンの座っている場所だ
哀愁感じるオジサンは仕事に疲れたわけでも人生に絶望したわけでもない
ポケモンGOに熱狂していただけなのだ!!
エアー君は 課金をしなくても『桜』の恩恵を受けられる この瞬間と その瞬間を作ってくれたオジサンに敬意を表しつつポケモンGOをした
しばらくして ふとエアー君は顔をあげる
周りを見ると 中高生や団地から出て来ただろう若い奥様がオジサンを中心に集まっていた
オジサンにも その様子は感じられただろう 自分を中心に人が集まっているのを感じただろう
この時 オジサンは確実に注目の的となっていた
オジサンはポケモンGOをする者にとってのヒーローになっていたのだ
この出来事は エアー君が初めてポケモンGOの広がり影響 流行りを感じた瞬間でもあった
エアー君『桜』エピソード 2
自分の住む地域に市の運営するスポーツセンターがある
その施設には室内 室外プールや柔道場 体育館などがあり 一般の利用の他に水泳競技や空手の大会等のスポーツ関連の行事に使われたりもするのだが その手の行事がない日は混雑することもない場所だ
このスポーツセンターは立地条件が悪い場所にあるので歩いて利用しに行く人は殆どいない
駅から 多少 距離があり 住宅街からも離れた場所にある
そして何よりも高台にあるのが欠点だ 上り坂を行くしかないのだ
元々ある小さな山を切り開いて建てたせいである
その施設の周りは開発が進んでいないので うっそうとした草木に覆われた場所が多く薄暗い
車や本数の少ないバスでスポーツセンターに行く人が大半だ
そんな閑散としたスポーツセンターの駐車場に車を停めて エアー君がポケモンGOの画面を見た時
近くに『桜』が咲いていた
こんな場所で『桜』を使った奴がいる!チャンスだ!とエアー君は『桜』の範囲に入るべく車を移動した
少し走ると車の通りが少ない上り坂にポツンとBMWの車が路駐しているのが見えた
中にいるのは30代後半ぐらいの男だ 運転席の座席をリクライニングして ハンドルに足を乗せダラリとした姿勢でスマホをいじっている
こいつだ!!こいつが『桜』を使った奴だ!!エアー君は確信した
その車以外に車はなく それ以前に人けもない 雑木林の間を縫うように作られた道だ
路駐しているBMWから少し離れて車を停めるエアー君
そしてポケモンGOの画面を見る 入っている!『桜』の中に!
人けもなく うっそうとした草木に囲まれた道に2台の車が路駐して 30代後半の男2人がポケモンGOをしている
言葉もなく ただ『桜』の中にお互いを意識しながらポケモンGOを!
照り付ける夏の日差しよりも熱く30代後半の男2人がポケモンGOをしているのだ!!
これは この夏だけの貴重な体験になるだろう
これは ひと夏の思い出になるだろう
ポケモンGOが結んだ 静かな繋がり
高い空の下 2人の男 縦の糸がBMWの男 横の糸はエアー君
人生を織りなす布は 熱い2人を更に熱く包み込かも知れない
熱狂的ポケモンGOブームが去る その日まで……
こんな話を聞いていたら電車は自分達が降りる駅に着いた
自分とエアー君は電車を降りて近くにある階段を上る
今回は空いている席を探すために先頭車両の近くに乗ったために普段とは違う階段を上る事になった
そのせいで階段を上ると自分は方向感覚が狂い どの改札口に来たのかが分からなかった
飲み会の場所は西口方面だ
ここは何口だ?とエアー君に聞くと南口改札だと教えてくれた
今いるのが南口改札だと分かった所で 自分には西口方面が どっちなのか見当がつかないのだが
そのことをエアー君に知られると鼻で笑われるのは分かり切っているので
知った風を装いエアー君の後をついて行くことにした
南口改札を抜けて西口方面を目指す
この駅は1日の乗車人数10万人越えの駅ビルで 改札は2階にあり東口と西口に それぞれ大きな広場がある
その広場の下は タクシーやバスの停留場になっている
自分とエアー君は まず西口広場へと向かって歩いて行く
南口から西口広場への通路を歩いていると その風景に自分は違和感を感じた
以前とは何かが違う
感覚的に違うと感じるのに その原因が分からない 今 見ている風景の中に答えがあるはずなのだが
自分には気づけない
その時 エアー君が驚嘆の声をあげた
「桜が咲き乱れてやがる!!世界がピンクだ!!」
――何を言っているんだ?エアー君は――
自分は ついにエアー君が壊れ幻覚でも見始めたのかとエアー君の前へと行く
エアー君はポケモンGOの画面と目の前の風景を交互に見ていた
その時になって自分は違和感の原因を理解した
立っているだけの人が やけに目に付くのだ
人を待っているようには見えない しいて言えば 今から始まるイベントを待っているかのような期待感 一体感を共有している人達が同じ場所でたむろっているように見える
立っている人達は皆 手元を見ていた
そう!そこにいる人は全員がポケモンGOをしていたのだ!!
エアー君は自分に「少しポケモンGOをしてもいいか?」と聞いてきた
飲み会の時間まで多少 余裕があるので自分は了解した
ただ 自分のスマホはポケモンGOが出来ないので 自分はすることがなく手持ち無沙汰になった
暇だったのでポケモンGOをするエアー君の写真をゲットしてみた
エアー君には桜吹雪でピンクに見える世界も
バラ色の未来もない自分には 所詮 灰色の世界にしか見えないがなっ!
そして
自分は灰色の世界の中でグーリン車の料金を払い忘れた事に気付いたが後の祭りである
続く
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