後編 計算通りいかないのは もう人生のスパイスみたいなもんだな

『夫婦円満の秘訣は帰ると言った時間には ちゃんと帰る事だ
有言実行こそが男の 夫としての 最低限のたしなみだ』

エスカレーター

こうやって書くと何やら有難味を感じる言葉に思えるが
結局 子供の頃 母親に「遊びに行く 何時に帰るね」と言っているのと変わらない

そして 約束の時間よりも遅れて帰り「約束と違うじゃない!今 何時だと思っているの!」と怒られる

男は大人になっているのか?……

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親分と終電とエスカレーター

自分とエアー君は終電の時刻に間に合うように親分を促し店を出た

なんと!店の勘定は 全部 親分が出してくれた!
あの刺身は一人前2500円から3000円はしただろうに 酒も かなり飲んだ
他にも ツマミを食べた

ここまでされたなら 親分への恩義のためにも 終電に乗り遅れると言う事態は絶対に避けたい

急ぎ足で駅へと向かう
人込みをすり抜け 可愛い女の子に目を奪われながらも前に進む

あとはエスカレーターを上がれば駅だ 終電の時間にも まだ余裕がある
だが このエスカレーターで予想外の事が起きた

親分が何故か下りのエスカレーターを登り始めたのだ

はた迷惑この上ない

何を考え この行動に親分が走ったのかは分からない

だが

親分が そこを登るなら 子分のうちらも酔いに任せてついて行くでしょ!
登るでしょ!当然でしょ!!

自分は走り出し下りのエスカレーターを逆走した

親分に追いつき
「これ 予想以上に疲れますよ 歩いても なかなか上につかない」と感想を言う
「ああ 疲れるな」と親分は笑った

急いでいるのに 二歩踏み出せば一歩下がる

下りエスカレーターの脅威 これが文明の力か 日本の最先端技術の賜物なのか

上りのエスカレーターの方からは笑い声がしていた
「隣 見ろよ ずーっと同じ目線なんだけど」と若い男がウケまくっている

他のにも多くの人が笑い そして失笑をしていた その中にエアー君の姿もあった

自分はエアー君が後ろに付いてきているとばかり思っていた
自分と親分を見捨てて他人行儀に我 関せずで上りエスカレーターに乗りやがったのだ

変なとこで常識人になりやがる

でも今はエアー君の所業を考える暇はない 立ち止まると下がってしまうから
エスカレーターの半分まで登ったのに 振り出しに戻るは避けたい

自分と親分は力の限りを尽くし登れば下がる道のりを行く

そして 見事に制覇する この達成感の無さ 無駄な疲労感

座りこんで休みたいところだが のんびりしていたら終電が行ってしまう

親分を急き立て駅の改札へ
親分に御馳走になった礼を言い 気をつけて帰って下さいと挨拶をして別れた

自分とエアー君は親分が終電に間に合ったことで安心した
あとは自分とエアー君が帰るだけだ

終電への誓いと思いつき

親分とは乗る電車が違うので自分達は余裕で最終電車に乗る事が出来た

電車内は思っていたより乗客がいた
ちらほらと席も空いてはいたが 二人並んで座れる席はない

自分はエアー君が席に座らないのを見て しょうがなく一緒に立っていることにした

エアー君 おぬしの足は まだ元気があるみたいだな
こっちは下りのエスカレーターを登り疲れているがな!と内心 思っていたのだが
無邪気に「今日の飲み会も楽しかったな」と笑顔で言うエアー君を見ては何も言えない

二人で話をしていたら電車を乗り換える駅についた
自分とエアー君は主要路線からローカル線に乗り換えるのだ

アルファベットのTの文字で例えると上の横棒が主要路線で縦棒がローカル線だな

この縦棒のローカル線で下って行くとエアー君の降りる駅で 次に自分が下りる駅につく

電車を乗り換えると言っているが正確には電車ではなく汽動車と言うらしい
電気ではなくディーゼルだ 平日の昼間なんか一車両だけで運行している

なんとも可愛らしい姿 この一車両に慣れ親しんだ子供は 都内の十数両編成の長い電車を見たらカルチャーショックで倒れるんじゃないかと心配してしまう

いつもなら改札の中から そのままローカル線の駅へ行けるのだが
何故か この時は 閉まっていた

一度 改札を出てローカル線の入り口へと行く

「やっちまった!」エアー君が叫んだ

ローカル線の入り口は電気が消え暗くなっている

「えっ!終電 行っちまったのか?!」と自分は気づく

親分の終電ばかり気にして自分達の終電を気にしていなかったのだ

主要路線が頑張って遅くまで終電を動かすのだから お前も頑張れよローカル線!
主要路線に合わして終電をだせよ!と叱咤しても終電は戻って来ない

「…俺ら 前にも終電 逃したことあるよな」とエアー君
「三回ぐらい やっているな」と過去を振り返り自分は言う

「普段 電車に乗らないから 時間を気にしないんだな」エアー君は情けない声で言った

「次に電車で飲みに行くことがあったら 絶対に終電に乗って帰ろうな
「ああ 終電の時間を気にしながら飲んで終電に乗ろう
自分とエアー君は 共に強く誓った 次は必ず終電に乗ると

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誓いも済んで冷静になった自分達は どう帰るかを考え始めた

「白タクとかいねぇかな」とエアー君
「昔は いたけどね この駅も寂れて人が少ないからな」
違法タクシーのことを白タクと言うのか
自分が見たことあるのは 一般の人が同じ方向へ帰る人を自家用車に乗せてた光景だ

ロータリーまで歩いて見たが 普通のタクシーが客待ちをしているだけで それらしい車はない

「タクシーで帰るしかないか…」と落胆するエアー君
その落胆する気持ちは自分にも理解できる

そもそも電車で飲みに行ったのは 車で代行を使って帰るより お金がかからないからだ

行きに使った電車賃とこの駅までの帰りの電車賃+タクシー代では 代行料金を自分とエアー君で割り勘したよりも高くつく

寒い思いをしながら駅まで歩きホームで電車を待った意味がない

でも自業自得なのだ

観念してタクシー乗り場に行くとタクシーの順番を待つ列が目に入った
5人ぐらいが並んでいる

見ていると1人でタクシーに乗り込む人がほとんどだった
皆 終電を逃した お仲間かと思ったとき

ふと 自分は思いついた

「エアー君 同じ方向に帰る人のタクシーに相乗りしちゃわない?」
「  赤原 やる価値あるよ それ」

今まさにタクシーに乗り込もうとしている兄さんに声をかけてみる

どの方向に行くかと聞いたら ビンゴ!自分達の行きたい方向と同じだった

料金割り勘で一緒に乗りませんかと尋ねたら 了承を得た
エアー君は女性と相乗りが楽しいよなと言っていたのだが贅沢は言えない

兄さんと自分達はタクシーに乗り込む

そしてタクシーは走り出した

最初に降りるのはエアー君だった
エアー君は2000円を自分に渡し「またな 赤原」と帰って行った

タクシーを停めた所から少し歩けばエアー君の家だ

タクシーは しばらく走り 次に降りたのは兄さんだった

話を聞いた感じでは兄さんの降りる所は もう少し先だったような気がしたのだが 1000円を置いて兄さんはタクシーを降りた

もしかしたら
自分とエアー君が馬刺しについてきた すりおろしニンニクを これでもかと食べていたせいで臭かったのかも知れない

兄さんがタクシーを降りた所から どれぐらい歩くかは自分には分からないが
自分達が乗らなければ家の前までタクシーで帰るつもりだったのかも知れない

自分は走るタクシーの中でエアー君も兄さんも家の前までタクシーで行っていない
自分も そうすべきだろかと考えていた

外は寒そうだ 足も疲れている
「あっ!運転手さん そこ右に行って左で」と指示をしていたら
自分の家の真ん前についてしまった

「ここで降ります」
「料金は2750円です」と運転手さん
「じゃあ3000円からで」と自分は エアー君からの2000円 兄さんからの1000円を渡し お釣りを貰った

タクシーに乗って帰ってきたのに 250円 儲かってしまった!

このことはエアー君には黙っておこう

こうして自分は家に帰り 布団で眠りにつくのだ

計算通りいかないのは もう人生のスパイスみたいなもんだなと色々あった今日の夜を思い返しながら

エアー君と誓った 次は必ず終電に乗るを肝に銘じて 眠るのだった

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終わり

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